*************** 名歌鑑賞 ***************


行く水の 渕瀬ならねど あすか風 きのふにかはる
秋は来にけり
                 頓阿法師
            
(ゆくみずの ふちせならねど あすかかぜ きのうに
 かわる あきはきにけり)

意味・・流れ行く水の渕瀬ではないけれど、飛鳥の里に
    吹く風は昨日に変り、今日は秋が訪れたよ。

    飛鳥川は昨日まで渕であった所が今日は浅瀬に
    なっているように、移り変わりが早い。このよ
    うに昨日まで夏の風が吹いていたのに、今日は
    もう秋風に変わっている。

    参考歌です。
   「世の中はなにか常なる飛鳥川昨日の渕ぞ今日は
    瀬になる」

 注・・あすか=飛鳥の里。奈良朝以前に都が置かれた
     所。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。二条
    為世に師事。同時代の浄弁・兼好・慶雲ととも
    に和歌四天王と称された。

出典・・頓阿法師詠(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)

参考歌です。

世の中は なにか常なる 飛鳥川 昨日の渕ぞ
今日は瀬になる         
                詠み人しらず
             
(よのなかは なにかつねなる あすかがわ きのう
 のふちぞ けふはせになる)

意味・・この世の中は、いったい何が変わらないのか、
    不変のものは何一つない。飛鳥川の流れも昨
    日渕であった所が今日はもう浅瀬に変わって
    いる。

    世の中の移り変わりが速いことを詠んだもの
    です。

 注・・あすか川=奈良県飛鳥を流れる川。明日を掛
     けている。
    渕=川の深く淀んでいる所。
    瀬=川の浅く流れの早い所。

出典・・ 古今和歌集・933。