***************** 名歌鑑賞 ******************


思ひ遣る すべの知らねば 片垸の 底にぞ我は
恋成りにける
                 粟田女娘子

(おもいやる すべのしらねば かたもいの そこにぞ
 われは こいなりにける)

詞書・・粟田女娘子、大伴家持に贈る歌。

意味・・私、あなたを恋してしまったんです。その気持ちを
    あなたが察して下さらないので、とても寂しく憂鬱
    なんです。胸の思いを晴らす手立ても分からないま
    まに、片垸(かたもい)ならぬ「片思い」のどん底で、
    私は恋する人として沈んでいます。

    家持に土をこねて作った蓋のない茶碗に、この歌を
    描いて贈った歌です。

 注・・思ひ遣る=心を慰める、憂いを晴らす。
    片垸(かたもい)=垸は土で作った茶碗。片垸は蓋の
     ない茶碗。「片思い」を掛ける。

作者・・粟田女娘子=あわたのめおとめ。伝未詳。

出典・・万葉集・707。