**************** 名歌鑑賞 ***************


ふるさとの蟹の鋏の赤いこと        
                    山頭火
    
(ふるさとの かにのはさみの あかいこと)

意味・・流浪の旅から戻り、故郷に入って先ず目につい
    た蟹だか、この蟹の鋏の何と赤いことだろう。
    何と美しいことだろうか。一味違って見えてく
    る。

    心情のこだわりから故郷を出たものの、久し振
    りに帰って来た故郷はやはり懐かしい。温かく
    感じられる。小川で遊んで取っていた蟹もやさ
    しい目で迎えてくれた。故郷はいいものだ。

作者・・山頭火=さんとうか。種田山頭火。1882~1940。
     母と弟の自殺、家業の酒造業の失敗などの
     不幸が重なり出家。禅僧として行乞流転の
     旅を送る。荻原井泉水の「層雲」に出句活躍。

出典・・金子兜太「放浪行乞・山頭火120句」。