***************** 名歌鑑賞 ****************


棕梠の葉の 菜の花の麦の ゆれ光り 揺れひかり 永き
ひと日なりけり
                  若山牧水

(しゅろのはの なのはなのむぎの ゆれひかり ゆれひかり
 ながき ひとひなりけり)

意味・・作者は家にこもって、一人で静かに原稿書きか何か
    をしている。もう春もかなり深い。すぐ窓の先には
    いかにも南国的な感じの棕梠の木が立っていて、そ
    の向こうは菜の花畑、そしてその向こうには青麦畑
    が続いている。風というほどの風もないけれど、そ
    れでもその棕梠の葉が明るい日差しの中に時おり揺
    らいできらりきらりと光り、そうかと思えば今度は
    黄金色に輝く菜の花畑が静かに揺れて光り、もうか
    なり伸びた青麦も時おり風に揺れて輝く。仕事を続
    けながらも時おり顔をあげて窓さきを眺めるたびに
    その同じような風景が目に入る。ああ本当に永い春
    の一日だなあ。

    のどかな春の田園の情景です。

 注・・棕梠のはの=「棕梠の葉が」の意。同じく「菜の花
     が」、「麦が」の意。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。早稲田
    大学卒。尾上柴舟に師事。旅と酒を愛す。

出典・・歌集「砂丘」。