**************** 名歌鑑賞 ***************


野毛山の 異人屋敷に 小米花 まばらに散りて
夏さやかなり
               太田水穂

(のげやまの いじんやしきに こごめばな まばらに
 ちりて なつさやかなり)

意味・・野毛山の赤い煉瓦の異人屋敷に、雪のように
    白い小米花がまばらに散り敷いていて、いよ
    いよ本格的な夏に入ろうとしている。

    異人屋敷の庭にひっそりと雪柳の花が散り敷
    いている。雨の中で白く咲いていた雪柳の花
    が、梅雨明けの頃の晴れた日、異人屋敷の赤
    煉瓦のさわやかに眺められる青空の下で点々
    とこぼれ散っている。それを眺めていると、
    しみじみ夏に入ったことが感じられて来る。

 注・・野毛山=横浜市中央の台地。港を俯瞰する景
     勝地にあり外人の邸宅が多かった。治外法
     権であった。
    異人屋敷=洋風の建物で赤い煉瓦造りが多か
     った。
    小米花=雪柳。バラ科の落葉灌木。晩春初夏
     に白い花を咲かせる。花がいっぱい散った
     あとの地面も雪がパラパラと 積もったよ
     うに見える。
    さやか=清か。はっきりして清らか。
    夏さやか=初夏になった。真夏を想像しては
     いけない。

作者・・太田水穂=おおたみずほ。1876~1955。長野
    師範卒。

出典・・学灯社「現代短歌評釈」。