**************** 名歌鑑賞 ***************


寝ても見ゆ 寝でも見えけり 大方は うつせみの世ぞ
夢にはありける
                  紀友則

(ねてもみゆ ねでもみえけり おおかたは うつせみの
 よぞ ゆめにはありける)

詞書・・藤原敏行が死んだ時にその人の遺族に贈った歌。

意味・・寝ても亡き人は夢に見えます。寝なくても面影は
    目に見えます。よく考えてみますと、現実のこの
    世は、夢のようなものと思うのです。

    この世は夢幻だという事を、体験を通じて詠んで
    います。
    眠っている時も起きている時も、変わる事無く亡
    き友の面影が見えて来る。すでに、現実の人では
    ないと思うと、現実に生きている者も、また同じ
    く夢の中の存在だと思われてくる心です。

 注・・大方は=たいていの場合は。一般的には。
    藤原敏行=「秋来ぬと目にはさやかに見えねども
     風の音におどろかれぬる」と詠んだ歌人。

作者・・紀友則=きのとものり。907年頃没。古今和歌集
    の撰者の一人。

出典・・古今和歌集・833。