*************** 名歌鑑賞 ****************


職を辞め 籠る日ごとに 幼らは おのもおのもに 
我に親しむ
                明石海人

(しょくをやめ こもるひごとに おさならは おのも
 おのもに われにしたしむ)

意味・・仕事を辞め、家に閉じこもる日々にあって、
    子供二人がそれぞれの形で私と親しみを深め
    ていくことだ。

    医師に癩病と診断され、学校の教師を辞めた
    頃の歌です。
    退職後一日中家にこもる父親に、事情を知ら
    ない子供たちは大喜びであった。父親の身に
    まつわり、戯れ、いっそう親しみを向けるよ
    うになった。
    しかし、病気が癩であることから、子供を近
    づけることは危険であった。癩菌は十歳以下
    の抵抗力の弱い年代にうつりやすいと聞いて
    いるからである。
    まつわりつこうとする幼児を振り払って庭に
    出る。手持ちぶさたのままに、小鳥かごの中
    の小鳥たちを覗いてみる。が体中に湧き上が
    って来る虚しさをどうすることも出来ない。

 注・・おのもおのも=己も己も。銘々が、それぞれ。

作者・・明石海人=1901~1939。ハンセン病を患い
    岡山県の愛生園で療養。手指の欠損、失明、
    喉に吸気管を付けた状態で歌集「白描」を出
    版。

出典・・松田範祐著「小説・瀬戸の潮鳴り」。