*************** 名歌鑑賞 ****************


あしびきの 山下光る 黄葉の 散りの乱ひは
今日にもあるかも
               阿部継麻呂

(あしびきの やましたひかる もみじばの ちりの
 まがいは きょうにもあるかも)

詞書・・竹敷の浦という入り海で、順風を待って船泊り
    している時、遣新羅(けんしらぎ)大使の一行が
    思い思いに旅の心を詠んだ歌。

意味・・山の上から山の裾まで照り輝くばかりの紅葉。
    その美しい葉が入り乱れて散る秋の真っ盛りは、
    まさに今日のこの日なのだ。

    今この瞬間、自分は真盛りの秋の中に身を置い
    ているという思い。そして、その盛りの秋こそ、
    妻が「この紅葉の季節にはお帰りになるでしょ
    うね」と約束して旅立ったのに・・。まだ新羅
    にも到着していないのに・・もう秋だ。

 注・・あしびきの=「山」にかかる枕詞。
    山下=山の麓。
    竹敷の浦=対馬の浅茅湾南部の竹敷の入海。
    新羅=韓国東南部にあった国。
    遣新羅(けんしらぎ)=736年6月に新羅に出発。
     秋には帰り着く予定であったが、疫病など
     が発生して、翌年3月に帰京した。

作者・・阿部継麻呂=あべのつぎまろ。737年没。736
    年遣新羅国の大使、途中対馬で病没。

出典・・万葉集・3700。