**************** 名歌鑑賞 ****************


愛し妹を いづち行かめと 山菅の そがひに寝しく
今し悔しも
                 東歌

(かなしいもを いずちゆかめと やますげの そがいに
 ねしく いましくやしも)

意味・・いとしい妻よ。お前が俺を置いて、決してどこ
    へも行かないと思えばこそ、生きていた日には
    夫婦喧嘩なんかして、背中合わせに寝た日もあ
    った。そのことが、お前の亡きあと悔やまれて
    たまらない。

    挽歌です。愛し合う者どうしの間には、さまざ
    まな思いが通いあう。愛の歓びにわきたつ日も
    あれば、憎しみののしる日もあろう。でも、生
    きている日こそ大切。相手が亡き人となってか
    ら、ありしののことを、ああすればよかった、
    こうすればよかっと、深く後悔してももう取り
    返しつかない。そんな思いをこめています。

 注・・愛(かな)し=いとおしい。
            いづち行かめと=どこへにも行く事はあるまい
     とたかをくくって、の意。
    山菅の=「背向・そがい」にかかる枕詞。
    そがひ=背向。背面。背中合わせ。
    挽歌=死を悲しむ歌。

出典・・万葉集・3577。