*************** 名歌鑑賞 ***************


かかるよに 影もかはらず 澄む月を 見る我が身さへ
うらめしきかな
                  西行

(かかるよに かげもかわらず すむつきを みる
 わがみさえ うらめしきかな)

詞書・・世の中は大変な事になって、崇徳院は御謀反
    の企てに敗れるというとんでもない事態にな
    り、御出家されて仁和寺にいらっしゃると、
    もれ承(うけたま)って、お見舞いに伺った。
    月の明るい夜であった。

意味・・痛ましくも崇徳院が御出家になるようなこん
    な世の中が恨ましいばかりか、常に変わる事
    のない光を放っている月が、そしてそれを見
    ている我が身までが恨ましく思われる。

    何もかも変わって何を信じていいか分からぬ
    このような世に、いつもと少しも変わらぬ己
    が影をひいて、明るく澄んでいる月を見てい
    る自分という人間は、一体何なのであろうか。

    この歌は崇徳院が御謀反の戦に敗れて何日も
    経っていないまだ物情騒然としていた時期の
    歌です。御謀反の戦いというのは、多年にわ
    たっての崇徳院の皇位継承に関する不満が父
    鳥羽法皇崩御を契機として爆発し、それに藤
    原氏内部の摂関争いが結びついて起こった争
    乱で、世に言う保元の乱です。

 注・・かかるよ=皇位継承の保元の乱が始まった世
     の中であり、崇徳院が破れて出家し、また
     讃岐に流された世の中。
    うらめしき=口惜しく悲しい、残念だ。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。俗名佐藤義
     清。下北面の武士として鳥羽院に仕える。
     1140年23歳で財力がありながら出家。出家後
    京の東山・嵯峨のあたりを転々とする。
     
出典・・家集「山家集・1227」。