*************** 名歌鑑賞 ***************


蟻ひとつ わが足もとに 歩みきて ゆくへを索め
またゆきにけり          
                 福田栄一

(ありひとつ わがあしもとに あゆみきて ゆくえを
 もとめ またゆきにけり)

意味・・ちいさな蟻が一匹自分の足元に歩んで来て、
    どこに行ったらよいか、行方をさぐっていた
    が、またどこともなく去って行った。

    作者が中央公論の編集次長だった昭和19年
    に詠んだ歌です。詞書は「中央公論社の存在
    が国家意思遂行の為に支障ありとの理由によ
    って解散させられた」となっています。彷徨
    (さまよ)っている自分の姿を蟻に比喩してい
    ます。

 注・・索(もと)め=さがしまわる。

作者・・福田栄一=ふくだえいいち。1909~1975。
    東洋大卒。中央公論の編集委員。

出典・・歌集「この花に及かず」(武川忠一編「現代
    短歌」)