**************** 名歌鑑賞 ****************


吹きと吹く 風な恨みそ 花の春 紅葉も残る
秋あらばこそ
                北条氏政

(ふきとふく かぜなうらみそ はなのはる もみじも
 のこる あきあらばこそ)

意味・・桜の花よ、吹きしきる春の風を恨まないでく
    れ。秋になったら美しい紅葉として残る葉も
    あるのだから。

    氏政は小田原城にたてこもり、秀吉の大軍を
    迎え撃ったが、秀吉の兵糧攻めに合い、無条
    件降伏した時に詠んだ辞世の歌です。

    最後まで秀吉と戦った武将として残る名を桜
    の花と紅葉にたとえています。

意味・・桜の花よ、吹きしきる春の風を恨まないでく
    れ。花が残る春や、紅葉が残る秋がある訳が
    ないのだから。

    花が散り、紅葉が散るのは自然の成り行きで
    ある。人間もいつかは死ぬものであり、自分
    もいつかは死ぬものだと、諦観した心境です。

  注・・吹きと吹く=吹きに吹く。「と」は同じ動詞
     の間に用いて、意味を強調する語。
    な・・そ=動作を禁止する語。どうか・・し
     てくれるな。
    あらばこそ=あるのだから。「こそ」は活用
     語の已然形に「ば」を介して理由を強調す
     る語。
    あらばこそ=ありはしない、全くない。

作者・・北条氏政=ほうじょううじまさ。1538~1580。
    戦国時代の相模国の武将。豊臣秀吉の小田原
    征伐に破れ降伏して切腹。

出典・・赤瀬川原平著「辞世のことば」。