**************** 名歌鑑賞 ****************


胸に刻む 言葉をひとつ 呟きて 佇てり秋風の
石塔の前
                峯村国一

(むねにきざむ ことばをひとつ つぶやきて たてり
 あきかぜの せきとうのまえ)

詞書・・東慶寺墓畔(注・太田水穂の墓がある)。

意味・・さびしさを誘う秋風が吹いている石塔は、それ
    は師太田水穂の墓である。師から教わって胸に
    刻んでいる言葉を、呟きながら佇(たたず)んで、
    師の冥福を祈っている。

    「胸に刻む言葉」は長い師弟の交わりで得た、
    座右の銘のような言葉であろう。経文の一句を
    誦するより、いっそう師の冥福を祈っているこ    
    とになる。

    生前の徳を讃えて冥福を祈る句、参考です。

    「未来までその香おくるや墓の梅」
         (意味は下記参照)

 注・・佇(た)てり=しばらく立ちどまる。
    東慶寺=鎌倉の東慶寺には太田水穂の墓がある。

作者・・峯村国一=みねむらくにいち。1888~1977。
            長野上田中学卒。八十二銀行重役。太田水穂に
    師事。

出典・・歌集「耕余集」(武川忠一篇「現代短歌鑑賞辞典」)

参考句です。

未来までその香おくるや墓の梅      
                   童門冬二

(みらいまで そのかおくるや はかのうめ)

意味・・墓参りに来たら、心地よい梅の香りがする。
    この香りは、墓の中に眠る人の徳であろう。
    しかもその徳は、未来にまで残したい家訓の
    ような徳である。生前の意志を継いで、その
    徳を守っていこう。

    家訓のような徳、例えば徳川家康の家訓。
   「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し
    急ぐべからず、不自由を常と思えば不足なし」

   (人間の一生は重い荷物を背負って遠い道を歩い
    ているのと似ている。従って、人生は忍耐し努
    力して一歩一歩着実に歩いていかなければなら
    ない。・・・・)