*************** 名歌鑑賞 ***************


白玉か なにぞとひとの 問ひしとき 露とこたへて
消なましものを
                  在原業平

(しらたまか なにぞとひとの といしとき つゆと
 こたえて けなましものを)

意味・・草の上にきらきらと光るあれはなんですか、
    真珠ですかと、あの人が問うた時、あれが
    はかない露ですよと答えて、その露の消え
    るように死んでしまったらよかったであろ
    うに。

    伊勢物語六段(下記参照)に出てくる歌です。
    はかない死を遂げた女性の、草の露を見て
    「白玉かなにぞ」と問いかけたいじらしさ
    と、死ぬと分っていたら、自分の方が露と
    消えて死にたかった、もっと何かしてあげ
    ていればよかったと嘆く作者です。

 注・・白玉=真珠。
    露=はかなく消えるものとしていっている。
    消なまし=「消」は「消え」の約音。伊勢
     物語では「消え」となっている。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。824~880。
    従四位上・左近近衛権中将。

出典・・新古今和歌集・851、伊勢物語六段。

伊勢物語六段、参考です。
昔、ある男がいた。その男は、容易に我が物に出来そ
うもなかった女を、幾年にもわたって求婚し続けてい
たが、やっとのことで、その女を連れ出して、夜の闇
にまぎれて逃げて行った。芥川という川のあたりを連
れて逃げて行ったところが、草の上に置いている露を
見て、女は「あれは何ですの」と男に尋ねた。
行く先遠く、夜も更けてしまったので、その上雷まで
もたいそうひどく鳴り、雨も激しく降って来たので、
鬼の住んでいる所とも知らずに、荒れ果てた蔵に、先
ず女を奥におし入れて、男は、矢を持ち戸口で番をし
ている。早く夜が明ければよいが、と思い続けて見張
っているうちに、鬼が、あっという間に女を一口に食
ってしまった。「あれえ」と女は叫んだけれども、雷
鳴にかき消されて、男は、その悲鳴を聞きつけること
が出来なかった。次第に夜も開けてきたので、あたり
を見ると、連れてきた女もいない。男は地団駄踏んで
泣くけれども、何の甲斐もない。その時詠んだ歌です。
「白玉か何ぞと人の問ひしとき露と答へて消えなまし
ものを」
(昨夜、あの光るのは白玉かしら何かしら、とあの人が
尋ねた時、あれは露ですよと答えて、私もその露のよ
うに消えてしまったらよかったものを)