*************** 名歌鑑賞 ****************


逢坂の 嵐の風は 寒けれど ゆくへ知らねば
わびつつぞふる
              詠み人知らず

(おうさかの あらしのかぜは さむけれど ゆくえ
 しらねば わびつつぞふる)

意味・・この逢坂に吹きすさぶ激しい風は寒いけれど
    も、私はどこに行くあてもないので、わびし
    く思いながらも、ここで暮らしているのです。

     この歌には、湯浅常山の「常山紀談」に逸話
     が載っています。
           細川幽斎の子の忠興(ただおき)が何事によらず
     諸事厳正に過ぎて家臣の面々やりにくく、多少
     の不服もあると、これを幽斎に告げる者がいた。
     幽斎は忠興の長臣を呼び、古歌二首を書き与え
    た。
   「逢坂の 嵐の風は 寒けれど ゆくへ知らねば 
    わびつつぞふる」
    この歌の心を察せよ。
    次の一首が
        「真菰草 つのぐみわたる 沢辺には つながぬ
    駒もはなれざりけり」の歌。
   「馬が沢辺を離れないように、人の心もまた同じ。
    情愛深い主人のもとでは、つなぎとめることなく
    人は落ち着くものである。去れといっても去るも
    のではない」
    この歌の心を思慮せよと忠興にいえと教訓した。

 注・・逢坂=山城国(京都府)と近江国(滋賀県)との
     境。逢坂の関で名高い。
    ゆくへ=行くべき方。
    わびつつ=気落ちする、途方にくれて困る。わ
     びしく思う。
    ふる=経る。月日を送る、過ごす。
     真菰草=水辺に生えるイネ科の多年草。
     つのぐみ=角ぐみ。角のような状態。
 
出典・・古今和歌集・988。