*************** 名歌鑑賞 ****************


世の中の うきをも知らで すむ月の かげはわが身の
心地こそすれ            
                  西行

(よのなかの うきをもしらで すむつきの かげは
 わがみの ここちこそすれ)

意味・・世間の辛い姿も知らずに空に澄みわたっている
    月は、我が身がそうありたいと思っている境地
    と同じような気持ちがする。
    
    理想とする像を澄み渡る月に求めた歌です。    
    西行の気持・理想像を考えて見ました。

    森鴎外の小説「高瀬舟」の一節です。

    「人は病があると、この病が無かったらと思う。
    その日その日が食えないと、食って行けたらと思う。
    万一の時に備える蓄えがないと少しでも蓄えがあった
    らと思う。
    蓄えがあっても、その蓄えがもっと多かったらと思う。
    斯くの如くに先から先に考えて見れば、人はどこまで
    行っても踏み留まる事が出来るものやら分からない」

    西行は、求めても求めても得られない苦しみ、この
          苦しみから逃れる事が出来たらと、思ったのだろうか。

 注・・うき=憂き、つらいこと。
 
作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。
 
出典・・歌集「山家集・401」。