*************** 名歌鑑賞 ****************


駒とめて 袖うちはらふ 陰もなし 佐野のわたりの
雪の夕暮れ       
                 藤原定家

(こまとめて そでうちはらう かげもなし さのの
  わたりの ゆきのゆうぐれ)

意味・・馬を止めて、雪の降りかかった袖を払う物陰も
    ない。佐野のあたりの雪の夕暮れは。
    
    馬を配し、時を夕暮れとし、一帯を白一色にして
    降る雪の中を、旅人が悩んでいる情景を詠んでい
    ます。

    本歌は、
   「苦しくも降りくる雨か三輪が崎狭野の渡りに家
    もあらなくに」です。  (意味は下記参照)

 注・・佐野=和歌山県新宮市内。
    わたり=辺り、あたり。

作者・・藤原定家=ふじわらのさだいえ。1162~1241。
   「新古今和歌集」の撰者の一人。

出典・・新古今和歌集・671。

本歌です。

苦しくも 降り来る雨か 三輪の崎 狭野の渡りに
家もあらなくに         
                 長忌寸意吉麻呂

(くるしくも ふりくるあめか みわのさき さのの
 わたりに いえもあらなくに)

意味・・困ったことに降ってくる雨だ。三輪の崎の狭野
    の渡し場には雨宿りする家もないのに。

    旅の途中で雨に降られて困った気持を詠んでい
    ます。

注・・三輪の崎=和歌山県新宮市の三輪崎。
   狭野=三輪崎の南の地。
   渡り=川を横切って渡るところ。 

作者・・長忌寸意吉麻呂=ながのいみきおきまろ。生没
    年未詳。700年前後の人。

出典・万葉集・265。