*************** 名歌鑑賞 ****************


あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに
なりぬべきかな      
                  藤原伊尹

(あわれとも いうべきひとは おもおえで みの
 いたづらに なりぬべきかな)

意味・・私のことをかわいそうだと言ってくれそうな人は
    誰も思い浮かんでこない。そんな孤独な私はこの
    まま死んでしまいそうです。

    失恋の痛手に身も心も弱り果て、自分が死んだと
    しても、かわいそうだと悲しんでくれる人は誰も
    いない。憐憫(れんびん)の情だけでもかけてほし
    いと思うけれども、それもかなわず、自分は独り
    恋こがれてむなしく死んでしまうのだろう、と悲
    嘆した歌です。

 注・・おもほえで=「思ほえ」は思われる、思い浮かぶ。
    「で」は打ち消しの助詞、思い浮かばないで。
    身のいたづらに=「いたづら」はむだだの意、身
     をむだにすること、すなわち死ぬことをいう。

作者・・藤原伊尹=ふじわらのこれまさ。924~972。
    後撰和歌集の撰者の一人。
    
出典・・拾遺和歌集・950、百人一首・45。