*************** 名歌鑑賞 ****************


奈良の春十二神将剥げ尽くせり                     
                   夏目漱石

(ならのはる じゅうにしんしょう はげつくせり)

意味・・「あおによし奈良の都は咲く花の匂うがごとく
    いま盛りなり」と詠まれた奈良時代の春。
    その時代に造られた新薬師寺の十二神将像、そ、
    の像の鮮やかな色は剥げ落ちてしまっている。
    色は剥げ尽くしているが、生き生きとした像を
    見ると感嘆させられる。

    この句は明治29年の作です。
    明治時代は、日本の文化がどんどん塗り替えら
    れていった時代。西洋化を急ぐ事が至上命題と
    されていた。
    十二神将の像、造られた当時は群青や緑、朱や
    金の色が施され、華麗なものだったとされてい
    る。色は剥げ尽くしても、命を失わないこの像。
    古びいて行く毎に魅力を増す十二神将。
    西洋化に色が塗られている時代。どんな色に塗
    り替えるか。外側だけを塗りたくる西洋の模倣
    だけで終わらせたくない・・・。

 注・・十二神将=奈良・新薬師寺にある十二神将が有
     名であり、奈良時代(八世紀)に造られた最古
     のもの。官毘羅(くびら)大将、代折羅(ばさら
     )大将、迷企羅(めくら)大将など12神将が薬師
     如来に従っている。薬師如来を信仰する者は
     守護されるとされ、各神将はそれぞれ七千、
     総計八万四千の煩悩(人の悩み)に対応すると
     されている。

作者・・夏目漱石=なつめそうせき。1867~1916。東大
    英文科卒。小説家。

出典・・大高翔著「漱石さんの句」。