名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2008年02月

2/1 大空の雨はわきてもそそがねどうるう草木は おのが品々
2/2 桃園の桃の花こそ咲きにけれ梅津の梅は 散りしぬらん
2/3 ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし大宮人の 見まくほしさに
2/4 風になびく富士の煙の空に消えてゆくへ知らぬわが思いかな
2/5 世の中はとてもかくても同じこと宮も藁屋も果てしなれれば
2/6 欠航と決まりし埠頭霙打つ
2/7 あなじ吹く瀬戸の潮合に船出してはやくぞすぐる佐屋形山
2/8 なみならぬ用事のたんとよせくれば釣りにゆくまもあら
   いそがしや   
2/9 沖つ風吹きにけらしな住吉の松の下枝を洗ふ白波
2/10 小夜ふくるままに汀の凍るらむ遠ざかりゆく滋賀の浦波
2/11 旭さすより寺男桑ほどく
2/12 川の上のつらつら椿つらつらに見れど飽かず巨勢の春野は
2/13 人の善悪聞けば我が身を咎めばや人は我が身の鏡なりけり
2/14 深山は霰降るらし外山なるまさきの葛色づきにけり
2/15 ひいき目に見てさえ寒きそぶりかな
2/16 憶良らは今は罷からむ子泣くらむそれその母も我を待つらむぞ
2/17 験なきものを思はずは一杯の濁れる酒を飲むべくあるべし
2/18 うちきらしさえし雪げにたち変りのどかに霞む春の空かな
2/19 梅が香に昔をとへば春の月こたへぬ影ぞ袖に映れる
2/20 菜の花や淀も桂も忘れ水
2/21 たのしみは春の桜に秋の月夫婦仲良く三度くふめし
2/22 引馬野ににほふ榛原入り乱れ衣にほわせ旅のしるしに
2/23 葛飾の真間の井を見れば立ち平し水汲ましけむ手児奈思ほゆ 
2/24 白梅や北野の茶店にすまひ取り
2/25 願はくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ
2/26 道のべの柳ひと枝もちづきの手向けにせんと折ってきさらぎ 
2/27 君をおきてあだし心を我がもてば末の松山波も越えなん
2/28 河内女や干菜に暗き窓の機
2/29 もののふの 矢並つくろふ籠手の上に霰たばしる那須の篠原

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  名歌観賞 308

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もののふの 矢並つくろふ 籠手の上に 霰たばしる 那須の篠原 
                  源実朝(みなもとさねとも) 

(もののうの やなみつくろう こてのうえに あられたばしる
 なすのしのはら)

意味・・武士が箙(えびら)の中の矢並を整えていると、その
    籠手の上に霰が音をたてて飛び散っている。勇壮な
    那須の篠原の活気みなぎる狩場であることだ。

    狩場の凛(りん)と張り詰めた勇壮な雰囲気と、霰の
    もつ激しさが溶け合っています。

 注・・矢並つくろふ=矢の並びの乱れを整える。
    籠手(こて)=手の甲を保護する武具。
    那須の篠原=栃木県那須野の篠竹(しのたけ)の群生
          する原。鎌倉時代は狩場であった。

河内女や 干菜に暗き 窓の機   吉分大魯(よしわけたいろ)

(かわちめや ほしなにくらき まどのはた)

意味・・河内女が干菜の吊るしてある暗い窓辺で黙々と
    機を織っている。いったい何を思って織ってい
    るのだろうか。

    薄暗い部屋の中で黙々と機を織っている河内女
    の姿を詠んだ句です。

 注・・機(はた)=機織り、布地を機で織ること。

君をおきて あだし心を わがもたば 末の松山 波も越えなむ
                        読人知らず

(きみをおきて あだしごころを わがもたば すえのまつやま
 なみもこえなん)

意味・・あなたをさしおいて、ほかの人に心を移すなんて
    ことがあろうはずはありません。そんなことがあ
    れば、あの海岸に聳(そび)える末の松山を波が越
    えてしまうでしょう。

    心の変わらないことを誓った歌です。

 注・・あだし心=浮気心、うわついた心。
    末の松山=宮城県の海辺にあるという山。

道のべの 柳ひと枝 もちづきの 手向けにせんと 
折ってきさらぎ        腹唐秋人(はらからあきひと)

(みちのべの やなぎひとえだ もちづきの たむけにせんと
 おってきさらぎ)

意味・・西行にゆかりのある道のべの柳の一枝を、二月
    十五日の忌日に手向けにしょうと思って、こう
    して手折って来たことだ。

    題は「西行忌」です。
    西行の有名な歌を二首織り込んで詠んだ歌です。
   「道のべに清水流るる柳かげしばしとてこそ立ち
    どまりつれ」 (意味は名歌観賞・12月14日)
   「願はくは花の下にて春死なんそのきさらぎの
    望月のころ」 (意味は名歌観賞・2月25日)

 注・・西行忌=陰暦の二月十五日。
    手向け=神仏に供え物をすることる
    きさらぎ=如月、二月。「来」を掛ける。

願はくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ
                      西行(さいぎょう)

(ねがわくは はなのしたにて はるしなん そのきさらぎの
 もちづきのころ)

意味・・願いがかなうなら、桜の下で春のさなかに死にたい。
    釈迦が入滅した、その二月十五日の満月のころに。

    月と花を愛し、その美の世界の中で宗教家として生涯
    を閉じたいと願った西行は、実際に1190年2月16
    日に世を去った。

 注・・その=釈迦の入滅(聖者の死ぬこと)の日をさす。

白梅や 北野の茶店に すまひ取    蕪村(ぶそん)

(しらうめや きたののちゃやに すもうとり)

意味・・京都北野天満宮の梅も今が盛り。花びらの時折
    散りかかる茶店の床几(しょうぎ)に、大きな体
    の相撲取りが腰掛けてゆったりと休んでいる。

    凛然(りんぜん)とした風姿と清爽(せいそう)感
    が共通する白梅と力士の取り合わせが句の眼目
    です。一般の人々の中に混じってひときわ目を
    引く力士が目に浮かびます。

 注・・北野=京都北野天満宮。

    

葛飾の 真間の井を見れば 立ち平し 水汲ましけむ 
手児奈し思ほふ       高橋虫麻呂(たかはしむしまろ)  

(かつしかの ままのいをみれば たちならし みずくましけん
 てごなしおもおゆ)

意味・・葛飾の真間の井戸を見ると、ここに通って水を汲んで
    いたというかわいらしい手児奈のことが思われる。

 注・・葛飾=今の東京都と千葉県の一部。
    真間=千葉県市川市真間。
    立ち平(なら)し=歩きまわって平にする。
    手児奈(てこな)=貧しい姿でも容姿が整った女の子。

引馬野に にほふ榛原 入り乱れ 衣にほわせ 旅のしるしに
          長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)

(ひくまのに におうはりはら いりみだれ ころもにおわせ
 たびのしるしに)

意味・・引馬野の色づいた榛(はんのき)の原よ。その中で、
    みんな入り乱れて衣を染めなさい。旅の記念に。

 注・・引馬野=浜松市曳馬町付近。
    榛(はんのき)=実や樹皮は染料になる。
    にほふ=色の美しいこと。
    にほわせ=色を移す。染め付ける。

たのしみは 春の桜に 秋の月 夫婦仲よく 三度くふめし
                 四方赤良(よもあから)

(たのしみは はるのさくらに あきのつき ふうふなかよく
 さんどくうめし)

意味・・春の桜、秋の月、夫婦仲むつまじく三度三度食う飯。
    不自由な田舎に住んでいても、けっこう楽しい生活
    があるものだ。

    題は「田舎興(いなかのきょう)」。
    この歌は、
    後世の橘曙覧(たちばなあけみ)の「たのしみは妻子
    (めこ)むつまじくうちつどい頭並べて物を食らふ時」
    など、「たのしみは・・」で始まる五十二首の独楽吟
    を導きだすもと、と言われています。

菜の花や 淀も桂も 忘れ水   言水(げんすい)

(なのはなや よどもかつらも わすれみず)

意味・・東山からはるか西南の方角を眺めると、そこは一面の
    菜の花で埋め尽くされている。いつもなら見えるはず
    の淀川や桂川の流れも、野中の忘れ水のように、その
    花々の下に隠れてしまって見えない。

    前書きは「東山の亭にて」です。
    広い地域全体が菜の花に埋め尽くされた情景の句です。

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