名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2008年07月

思ひ立つ 重きその荷を 卸すなよ 力車は 
くだけぬるとも         宗川儀八(むねかわぎはち)

(おもいたつ おもきそのにを おろすなよ ちから
ぐるまは くだけぬるとも)

意味・・志を立てたなら、その志を貫くという事は
    重い荷を背負うと同じ困難さがあるので、
    荷を積んだ荷車が朽ちたとしても荷を卸さ
    ずに進んでくれ。どんな困難があろうとも
    志を捨てずに進んでいって欲しい。

 注・・力車=荷車。

急がずば ぬれざらましを 旅人の あとよりはるる
野路の村雨           太田道灌(おおたどうかん)

(いそがずば ぬれざらましを たびびとの あとより
 はるる のじのむらさめ)

意味・・もしも急がなければ、濡れなかったであろうに。
    旅人が通った後から晴れていく野の道に降った
    にわか雨だなあ。

    急いだばかりにずぶ濡れになった旅人の後から
    皮肉にも晴れていく村雨の景は「急(せ)いては
    事を仕損じる」の教訓として詠まれています。

 注・・村雨=にわか雨。

この里も ゆふだちしけり 浅茅生に 露のすがらぬ
くさの葉もなし      源俊頼(みなもととしより)

(このさとも ゆうだちしけり あさじうに つゆのすがらぬ
 くさのはもなし)

意味・・この里でも夕立が降ったのだなあ。浅茅生
    には露がすがりついていない草の葉もない。

    旅の途中ですでに夕立に会い、草葉に置い
    た露でここも夕立が降ったことを知る。

 注・・浅茅生(あさぢう)=丈の低い茅が生えてい
      る野原。

石切の 鑿冷したる 清水かな   蕪村(ぶそん)

(いしきりの のみひやしたる しみずかな)

意味・・日盛りの石切り場で、石切人夫が
    石を切り出していたが、夏の暑さ
    にのみも熱くなったので、かたわ
    らの清水にのみをつけて冷やして
    いる。いかにも涼しげそうだ。

    一仕事をすると、のみも熱くなる
    し汗もかく。一息入れるためのみ
    を冷やすのである。

  

高山の 影をうつして 行く水の 低きにつくを 
心ともがな                 読人知らず

(たかやまの かげをうつして ゆくみずの ひくきにつくを
 こころともがな)

意味・・高い山の春夏秋冬の美しい風景を写して
    流れ行く川が低い方に流れて行くように
    私もそのように心掛けて行きたいものだ。

    美しい川は自分を自慢した態度は取らず
    下手に流れて行くように。

夕立の まだ晴れやらぬ 雲間より おなじ空とも 
見えぬ月かな           俊恵法師(しゅんえほうし)

(ゆうだちの まだはれやらぬ くもまより おなじそらとも
 みえぬつきかな)

意味・・夕立が降ったばかりの雲の間より、
    今夕立を降らした空とも思えない
    ような美しい月が見えることだ。

駒とめて なほ水かはむ 山吹の 花の露添う 
井出の玉川          藤原俊成(ふじわらとしなり)

(こまとめて なおみずこわん やまぶきの はなのつゆ
 そう いでのたまがわ)

意味・・馬を止めてやはり水を飲ませよう。山吹の
    花の露が加わる井出の玉川で。

    岸一体が明るい山吹の花。花から光こぼれる
    露。その露の加わった流れ。去りがたく馬が
    水を飲む間、美しい山吹の花を眺めていよう
    という心です。

 注・・水かはむ=水飼(こ)はむ。水を飲ませよう。
    井出の玉川=京都綴喜(つづき)井出町を流れ
     る川。

出典・・新古今和歌集・159。

あはれにも みさをに燃ゆる 蛍かな 声立てつべき
この世と思ふに         源俊頼(みなもととしより)

(あわれにも みさおにもゆる ほたるかな こえたてつ
 べき このよとおもうに)

意味・・いとしくも平然と燃える蛍だなあ。苦しさに
    悲鳴をあげてしまいそうなこの世だと思うのに。

 注・・あはれ=いとしい、ふびんだ。
    みさを=平気なこと。

夏河を 越すうれしさよ 手に草履  蕪村(ぶそん)

(なつかわを こすうれしさよ てにぞうり)

意味・・流れも浅い夏の川を、手に草履を持って
    はだしで渡ってみる。底砂の冷たい感触
    も快く、このような水遊びが出来ること
    に嬉しくなってくる。

沢水に 空なる星の うつるかと 見ゆるは夜半の 
蛍なりけり       藤原良経(ふじわらよしつね) 

(さわみずに そらなるほしの うつるかと みゆるは
 よわの ほたるなりけり)

意味・・沢の水面に空の星が映っているのかと
    思ったら、星ではなくて夜半の蛍であった。   

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