名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2008年08月

庵原の 清見の崎の 三保の浦ゆ ゆたけき見つつ
もの思ひもなし      田口益人(たぐちのますひと)

(いおはらの きよみのさきの みほのうらゆ ゆたけき
 みつつ ものもいもなし)

意味・・庵原の清見の崎の三保の浦、その広々と
    ゆったりした海岸を眺めていると、胸の中
    が洗い清められて晴れ晴れとした気持だ。

    駿河から遠い上野国(こうずのくに・群馬)
    に赴任する時、広大な海の景色を見て、
    胸にまつわる種々の愁いやわだかまりが
    すっかり取れたことを詠んだ歌です。

 注・・庵原=静岡県庵原郡清水市。
    三保の浦=三保の松原をのぞむ海岸。
    ゆたけき=豊けき、広々している、ゆった
         りしている。
    もの思(も)ひ=心配事。

燈火の 明石大門に 入らむ日や 漕ぎ別れなむ
家のあたり見ず    柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)

(ともしびの あかしおおとに いらんひや こぎわかれ
 なん いえのあたりみず)

意味・・明石の広い海峡に船がさしかかる日には、
    はるか彼方の故郷に別れを告げることに
    なるであろうか。もう家族の住む大和の
    山々を見ることもなく。

    大和から九州へ下る時の心細さを詠んだ
    歌です。

 注・・燈火=明石の枕詞。
    大門(おおと)=大きな海峡。

芦北の 野坂の浦ゆ 船出して 水島に行かむ 
波立つなゆめ        長田王(ながたのおおきみ)

(あしきたの のさかのうらゆ ふなでして みずしまに
 ゆかん なみたつなゆめ)

意味・・芦北の野坂の浦から船出して、水島に渡ろう
    と思う。波よ、立ってくれるな、決して。

    船旅の無事を祈願した歌です。

 注・・芦北の野坂の浦=熊本県芦北郡の不知火に面し
     た海岸、田浦町田浦など。
    ゆ=動作の時間的、空間的起点を表す。・・から。
    水島=熊本県八代市球磨川の河口にある小島。

作者・・長田王=ながたのおおきみ。737年没。従四位
    近江守。

出典・・万葉集・246。

大宮の 内まで聞こゆ 網引すと 網子ととのふる
海人の呼び声 
           長忌寸意吉麻呂(ながのいみきおきまろ)

(おおみやの うちまできこゆ あびきすと あごととのうる
 あまのよびごえ)

意味・・御殿の中まで聞こえてきます。網を引こうと
    網子たちを集め、音頭を取る漁師の掛け声が。

    持統上皇の大阪・難波行幸があった時、その
    地の賑わいを讃えた歌です。

 注・・大宮=神社、御殿。
    網子(あご)=地引網を引く下っ端の漁師たち。
    ととのふる=大勢の人々の行動を制御する。

み薦刈る 信濃の真弓 我が引かば 貴人さびて
いなと言はむかも      
                 久米禅師

(みこもかる しなののまゆみ わがひかば うまひと
 さびて いなといわんかも)

意味・・信濃産の真弓を引くように、私があなたの    
    手を取って引き寄せたら、貴人ぶっていや
    というでしょうかね。

    求婚の歌です。

 注・・み薦刈る=信濃の枕詞。「薦」は沼地に生える草の一種。
    真弓=檀(まゆみ)製の弓、信濃は弓の産地であった。
    さびて=・・のように。

作者・・久米禅師=くめのぜんじ。生没年未詳。

出典・・万葉集・96。

ますらをの さつ矢手挟み 立ち向かひ 射る円方は
見るにさやけし      舎人娘子(とねりのおとめ)

(ますらおの さつやたばさみ たちむかい いる
 まとかたは みるにさやけし)

意味・・ますらおが矢を挟み持ち、立ち向かって的を
    射ているように、円方浜は見るからに清々し
    い事だ。

    国を讃える歌です。

 注・・ますらを=立派な男子。
    さつ矢=「さつ」は幸、矢をほめていう。
    円方(まとかた)=地名で三重県松阪市の東部、
       的方を掛ける。

けふという 今日は雲霧 晴れ尽くし 富士の高嶺を
見る心地せり        吉村昭(よしむらあきら)

(きょうという きようはうんむ はれつくし ふじの
 たかねを みるここちせり)

意味・・毎日毎日、心の中のもやもやが残っていて
    気分がすぐれなかったが、今日はそれが吹
    っ切れて、富士山の晴れ晴れしい姿を見る
    気分だ。

    日頃夢に思っていた事が実現した時のよう
    な喜びです。

為せば成る 為さねば成らぬ 何事も 成らぬは人の
為さぬなりけり       
            上杉鷹山(うえすぎようざん)

(なせばなる なさねばならぬ なにごとも ならぬは
 ひとの なさぬなりけり)

意味・・やる気をだしてやろうと思えば何事も
    出来るものである。出来る事もやらな
    ければ出来ない。出来ないのはやろう
    としないからだ。

    どんな事でも、やろうとしなければ実
    現しない。頑張ってやって見れば必ず
    達成出来る。「出来ない」というのは
    やらないから。やろうと決意して目標
    に向かうことが成就の第一歩になる。

作者・・上杉鷹山=1751~1822。江戸時代中期の
    出羽国(今の山形・秋田県)米沢藩主。
    藩政再建の大改革を実行。

いかなれば 同じ一つに 咲く花の 濃くも薄くも
色を分くらむ               良寛

(いかなれば おなじひとつにさくはなの こくも
 うすくも 色をわくらん)

意味・・どうしたことで、同じ一つの時期に咲く花が、
    濃い色や薄い色に色を分けて咲くのだろうか。

    人も持ち場や立場で、また得て不得手により
    色々の花を咲かせるものである。

 注・・いかなれば=どうして。

山松に 蝉の居なほる 朝日かな  
               水田西吟(みずたさいぎん)

(やままつに せみのいなおる あさひかな)

意味・・朝日がのぼり、山間に日がさしてくると、
    山の松の幹にいた蝉が居ずまいをただして、
    あらたまった感じで鳴き始めた。

    夏の朝の暑い日差しを受けると、蝉は急に
    勢いづいて本格的に鳴き始めた、その様子
    を詠んだ句です。

 注・・山松=山の中の松の木。

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