名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2008年09月

白波の 千重に来寄する 住吉の 岸の埴生に 
にほひて行かな       車持千年(くるまもちちとせ)

(しらなみの ちえにきよする すみよしの きしのはにうに
 においてゆかな)

意味・・白波の幾重にも来寄せる住吉の浜の岸の埴土(は
    につち)で、さあみんな、衣を染めて行こう。

    白波の花が岸辺を咲きめぐる住吉の浜辺の風光
    を讃え、遊覧に来た記念に衣を染めて行こうと
    詠んだ歌です。

 注・・住吉=大阪市住吉区の海岸。
    岸の埴生=「岸」は崖、「埴(はに)」は赤や黄の
      粘土、顔料になる。「生」はそれのある場所。
    にほひて=染めて。

鳥の子の まだかひながら あらませば をばといふ物は
をひいでざらまし             読人知らず

(とりのこの まだかいながら あらませば おばという
 ものは おいいでざらまし)

意味・・鳥の雛がまだ卵のままであったなら、
    尾羽など生え出ないだろうに、私も
    まだ甲斐の国にいたなら、姨(おば)
    が追い出すこともなかったろうに。

    甲斐の国より出て来て、姨の所で世話
    になっていたが、取るに足りない事で
    喧嘩になり、追い出される羽目になっ
    て詠んだ歌です。三種の掛詞に趣向を
    こらしている。

 注・・かひ=卵。「甲斐」を掛ける。
    をば=尾羽。「姨(おば・母の姉妹)」を掛ける。
    おひ=「生ひ」に「追ひ」を掛ける。

去年見てし 秋の月夜は 照らせども 相見し妹は 
いや年離る     柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)

(こぞみてし あきのつくよは てらせども あいみし
 いもは いやとしさかる)

意味・・去年見た秋の月は今も変わらずに照って
    いるが、この月を一緒に見た妻は、年月
    とともにいよいよ遠ざかって行く。

    妻を亡くして幾月が過ぎた後、秋の月を
    見て悲しみがつのり、月日とともに妻と
    遠ざかって行く事を嘆いた歌です。

 注・・妹=男性から女性を親しんでいう語。妻、
      恋人。
    いや=弥、いよいよ、ますます。

心には 下ゆく水の わきかへり 言はで思ふぞ 
言ふにまされる               読人知らず

(こころには したゆくみずの わきかえり いわでおもうぞ
 いうにまされる)

意味・・胸の中では、ちょうど地の中を流れて行く
    水がわきかえる、そのように激しくあなた
    を思う心が起こっていて、口にだしてはそ
    れを言わないが、そのほうが、かえって言
    うのにもまして思っていることなのですよ。

    恋の歌です。

木の間より もりくる月の 影見れば 心づくしの 
秋は来にけり            読人知らず

(このまより もりくるつきの かげみれば こころづくしの
 あきはきにけり)

意味・・木の間を通して洩れてくる月の光を見ると、
    心を痛める秋という季節は来ていたのだなあ。

    秋といえば気候が良く気持の良い時季であり、
    実りの季節、収穫の季節であるので、働く村
    人にとっては最も喜ばしい季節である。
    その一方、夏の間は月の光も通さなかった木
    立の繁みが、秋になって細く青い光を通すよ
    うになった。この推移を感じた作者は、万物の
    盛りが過ぎて衰えてゆくわびしい季節として、
    感傷悲哀の季節として、秋をとらえ詠んだ歌
    です。

 注・・心づくし=気をもむ、心を痛める。

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