名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2008年10月

山守よ 斧のをと高く ひびく也 みねの紅葉は よきてきらせよ
               藤原師実(ふじわらものざね)

(やまもりよ おののおとたかく ひびくなり みねのもみじは
 よきてきらせよ)

意味・・山守よ斧の音が高く響いている。山の峰の
    紅葉は避けて手斧で切るようにさせよ。

    紅葉の美しさを間接的に詠んだ歌です。

 注・・山守=山を守る人。山の番人。
    よきて=「避きて」と「斧(よき)」を掛ける。
 

一人買い 釣られ買いする 秋刀魚かな            
.                  桑垣信子(くわがきのぶこ)

(ひとりかい つられかいする さんまかな)


   スーパーでのタイムセールや香具師の叩き売り、
   はたまた、株価暴落時の投売り等の群集心理を
   詠んだ句です。

つらからば われも心の 変はれかし など憂き人の 
恋しかるらむ        紫式部(むらさきしきぶ)

(つらからば われもこころの かわれかし などうき
 ひとの こいしかるらん)

意味・・こんなにつらいのなら、自分の心も変わって
    しまえばいいのに。どうして自分につらい思
    いをさせる、あの心変わりをした人が今なお
    こんなに恋しいのだろう。
     
 「人のつらくは 我も心の変われかし 憎むに愛(いと)
  ほしいは あんはちや」(閑吟集)が本歌です。

意味・・向うが冷たくなったのだし、自分も心変わりを
    してやりたいのに、ああ、嫌われていながらあ
    の人が愛しいなんで、くやしいなあ。

 注・・あんはちや=あん恥や、恥辱だ。
    

しづやしづ しづの苧環 くり返し 昔をを今に
なすよしもがな
            静御前(しずかごぜん)

(しずやしず しずのおだまき くりかえし むかしを
 いまに なすよしもがな)

意味・・倭文(しず)の布を織る麻糸を丸く巻いた苧環
    (おだまき)から、糸が繰り出されるように、
    再び繰り返えして、昔の二人の仲を今に繰り
    返す方法はないものかなあ。

    義経を慕っている静御前が、頼朝の前で舞曲
    を奉じる時に吟じたものです。    

    義経が頼朝に追われているが、追われる前の
    良き時代に今をする事が出来たならなあ、と
    いう気持を詠んだ歌です。

 注・・しづ(倭文)の苧環(おだまき)=倭文は古代の
     織物の名、苧環は織物を織る糸を巻き取る
     道具、くるくると繰り返し巻き取る。

若竹の 生い行く末を 祈るかな この世を憂しと いとふものから
                  紫式部(むらさきしきぶ)

(わかたけの おいゆくすえを いのるかな このよをうしと
 いとうものから)

意味・・いやなことばかりの世の中。でも今はこの子が
    若竹のようにすくすく生きてくれますようにと
    ひたすら祈ります。

    幼児が熱をだしたので、疫病の兆候ではないか
    と心配して、祈って詠んだ歌です。

 注・・若竹=その年に生えた竹。ここでは我が児を暗
       示している。筍の皮がすっかりなくなった
       頃の竹。
    憂し=つらい、憂鬱。
    いとふ=厭う、嫌う。

鶉鳴く 真野の入江の 浜風に 尾花なみよる
秋の夕暮れ 
          源俊頼(みなもとのとしより)
          (金葉和歌集・239)
(うずらなく まののいりえの はまかぜに おばな
なみよる あきのゆうぐれ)

意味・・鶉が悲しげに鳴いている真野の入江に吹く
    浜風によって、尾花が波うつようになびい
    ている秋の夕暮れだなあ。

    薄の尾花に鶉の声を配して、秋の夕暮れの
    物寂しい情景を詠んでいる。

 注・・鶉鳴く=万葉時代の表現で、恋人に捨てら
      れて泣く女性を暗示し、寂しさが伴う。
    真野=滋賀県大津市真野町。
    尾花=薄の異名。

作者・・源俊頼=1055~1129。左京権大夫・従四位上。

花の色は 心のままに なれにけり ことしげき世を 
いとふしるしに          兼好法師(けんこうほうし)

(はなのいろは こころのままに なれにけり ことしげきよを
 いとふしるしに)

意味・・桜の花の美しさには思うままに十分親しんだことだ。
    わずらわしい事の多い世間を嫌って出家した甲斐が
    あって。

    いやでたまらない会社を辞めた時のような気持を詠
    んでいます。
    

 注・・ことしげき世=事繁き世、「事」は政務や事務の仕事、
      「繁き」はあわただしいの意、官人として生きる
      社会のわずらわしさ。兼好は蔵人の地位であった。
    いとふ=嫌う、ここでは世を嫌って出家すること。
    しるし=甲斐がある、効果。

月は秋と 思ふりにし 空ながら 今さらしなに おどろかれぬる
                     慈円(じえん)

(つきはあきと おもいふりにし そらながら いまさらしなに
 おどろかれぬる)

意味・・月はとりわけ秋のものだと、以前から思って
    きた空ではあるものの、今更のように更科の
    山に出た月の明るさに驚いたことだ。

 注・・今さらしなに=「今更」と「更科」を掛ける。
      更科は長野県更級郡で月の名所。

あはづ野の おばなが下に 吹きこめて 風に浪こす 山おろしかな
                藤原良経(ふじわらよしつね)

(あわずのの おばながしたに ふきこめて かぜになみこす
 やまおろしかな)

意味・・山颪の風が、粟津野に咲き乱れた尾花の下に
    吹き込められて、風の上を白波が越えている
    ように見えるよ。

    風が尾花を波打たせあたかも琵琶湖の白波の
    ように見える風景を詠んだ歌です。

 注・・あはづ野=滋賀県大津市粟津町、琵琶湖湖畔。
    おばな=尾花、薄のこと。

散る花を なげきし人は このもとの 淋しきことや
かねて知りけむ      紫式部(むらさきしきぶ)

(ちるはなを なげきひとは このもとの さびしきことや
 かねてしりけん)

意味・・夫は常々、この桜が散るのを惜しがったものです。
    花(自分)なき後の、子供達の行く末を案じてい
    たのでしょう。

    夫の藤原宣孝(のぶたか)が亡くなった後、庭の桜
    が見事に開花した時に詠んだ歌です。

 注・・このもと=木の下。転じて、たよる人。
    淋しい=寂しい、経済的に貧しい。

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