名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2008年12月

わが宿は 雪降りしきて 道もなし 踏みわけてとふ
人しなければ           読人知らず

(わがやどは ゆきふりしきて みちもなし ふみわけて
 とう ひとしなければ)

意味・・我が家の庭には雪が一面に降って道さえも
    なくなってしまった。この雪の道を踏み分
    けて訪ねてくれる人なんて一人もないもの
    だ。

    きれいに降り敷いた我が家の雪景色を誰か
    に見てもらいたい気持を詠んだ歌です。

 注・・とふ人しなければ=「とふ人はなし」と同じ。
    

沖縄の潮の香のせし賀状来る   北海道 佐藤美津夫

(おきなわの しおのかのせし がじょうくる)

意味・・ここ北海道では雪と寒さのため、家に引っ込み
    勝ち。沖縄から来た年賀状を見ていると陽気な
    春を思わせ、また何処までも透き通った海で遊
    んだ事を思わせる。
    ここ北海道にも、は~るよ来い、早く来い。

ながきよの とをのねぶりの みなめざめ なみのり
ふねの おとのよきかな        (読人不明)

(長き夜の遠の眠りのみな目覚め波乗り舟の音の良きかな)

意味・・長い夜の眠りはすでに目覚めている。
    私は宝船に乗って心地よい波の音が聞こえて
    来る夢を見た。
    このような吉夢が見られた事は、今年は良い
    年になりそうだ。

    回文です。
    この歌は16世紀中国の「日本風土記」の本
    に紹介されたものです。
    近世、初夢の晩(正月二日)に吉夢を見る為に
    宝船の絵を枕の下に敷く風習があった。
    その絵に添えて書かれた歌です。

あらぬ世に くれまどひぬる いとなみも 一夜あくれば
なれる春かな          心敬(しんけい)

(あらぬよに くれまどいぬる いとなみも ひとよ
 あくれば なれるはるかな)

意味・・世間一般の年の暮れの忙しさに途方にくれて
    いても、一夜明けて新春を迎えると、これま
    でとうって変わって、別の世界になったよう
    な気分になるものだ。
    
    「あらぬ世に」はここで切り、「一夜あくれ
    ば」に続きます。

 注・・あらぬ世=別世界。
    くれまどひぬる=途方にくれる。「くれ」に
      「(年の)暮れ」を掛ける。
    なれる=成れる。

筑波嶺の 峰のもみじ葉 落ち積り 知るも知らぬも
なべてかなしも          読人知らず
(つくばねの みねのもみじば おちつもり しるも
 しらぬも なべてかなしも)

意味・・筑波の峰にもみじが散っているが、そのもみじ
    のようにきれいな人、私の知人であってもなく
    ても愛(いと)しいものですよ。

 注・・筑波嶺=茨城県筑波山。
    知るも知らぬも=私が知っている人も知らない
        人も。
    なべて=すべて。
    

年ふれば 我がいただきに をく霜を 草の上とも 
思ひけるかな       藤原仲実(ふじわらのなかさね)

(としふれば わがいただきに おくしもを くさのうえとも
 おもいけるかな)

意味・・年をとって、私の頭は霜のように白髪となったが、
    霜は草の上に置いてあって、私には無縁なものと
    思っていましたよ。

    相応の年齢になって、増えた白髪の戸惑いを詠ん
    います。

 注・・いただきにをく霜=霜は白髪の比喩。

世の中は 夢か現か 現とも 夢とも知らず ありて
なければ               
              詠人知らず (古今集・942)

(よのなかは ゆめかうつつか うつつとも ゆめとも
 しらず ありてなければ)

意味・・この世の中の一切のものは、はかない夢なのか、
    確かな現実なのか。現実とも夢とも区別がつか
    ない。存在していて、同時に存在していないと
    思われるから。

    過去の苦しい思いは悪夢というように、過去の
    事はもう現在は実在しない、実在していたが今
    は夢という事もできる。
    現状は苦しいという存在がある。この苦しさか
    ら逃げたいが、この思いははかない夢のように
    終わってしまう。
    嬉しいことは夢でなければ良いと思うし、失敗
    した時や身内の人を亡くした時は夢であって欲
    しいという気持がある。
    このような事を詠んだ歌です。

風をいたみ 沖つ白波 高からし 海人の釣舟 浜に帰りぬ
                   角麻呂(つのまろ)

(かぜをいたみ おきつしらなみ たかからし あまの
 つりぶね はまにかえりぬ)

意味・・風が激しくて沖の白波が高く立っているらしい。
    海人の釣舟は皆浜に帰って来てしまった。

    漁師が漁を出来ずに残念がっている姿を詠んで
    います。

 注・・いたみ=「・・(を)+形容詞の語幹(いた)+み」
     は、原因・理由を表す。・・が・・なので。
     「いたし」は、程度が甚だしいこと。ここでは
     (風が)激しいで、の意。
    海人=漁業に従事する人。漁師。
     

奥山の 岩垣もみぢ 散りはてて 朽葉がうへに
雪ぞつもれる       大江匡房(おおえのまさふさ)

(おくやまの いわねもみじ ちりはてて くちばがうえに
 ゆきぞつもれる)

意味・・奥深い山の岩垣の紅葉はすっかり散って、朽
    葉の上に雪が積っている。
  
    人知れず紅葉は散り、人知れず雪が降る様を
    読んだ歌です。

 注・・岩垣もみぢ=四方を囲むように、岩の壁をに
      這う葛の類の紅葉。
      

我が恋は 松を時雨の 染めかねて 真葛が原に
風さわぐなり             慈円(じえん)

(わがこいは まつをしぐれの そめかねて まくずが
 はらに かぜさわぐなり)

意味・・私の恋は、松を時雨が紅葉させることが出来ない
    でいるように、思う人をなびかせることが出来ず、
    真葛が原に、葛の葉の裏を白々と見せながら風が
    騒いでいるように、恨みがましく心を騒がせてい
    ることだ。

 注・・松を時雨の染めかねて=常緑で時雨も染めて紅葉
      出来ない「松」に、なびかせることの出来な
      い恋人を暗示し「時雨」を自分に暗示。
    真葛=真は美称の語、葛はマメ科の植物で裏は白
      っぽい。風が吹いて葛が白っぽい裏を見せる
      ので、恨み(裏見)で心の落ち着かない状態を
      暗示。

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