名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2009年03月

からさきや 春のさざ浪 うちとけて 霞を映す
しがの山陰       藤原良経(ふじわらのよしつね)

(からさきや はるのさざなみ うちとけて かすみを
 うつす しがのやまかげ)

意味・・唐崎では、春になって湖の氷が解けて
    さざ波が立ち、目を転じると、志賀の
    山陰あたりに霞がゆったりと移動して
    いる。

    琵琶湖湖畔の天地の春の風景を詠んで
    います。

 注・・からさき=唐崎、滋賀県大津市。近江
      八景の一つ。
    春のさざ浪うちとけて=氷が解けて春の
      さざ浪がたつ、の意。

身にかへて あやなく花を 惜しむかな 生けらば後の
春もこそあれ     藤原長能(ふじわらのながとう)

(みにかえて あやなくはなを おしむかな いけらば
 のちの はるもこそあれ)

意味・・自分の命に代えても散らせたくないと、我なが
    らむやみに桜の散るのを惜しむ事だ。生きてい
    たならばまた花の咲く来年の春もあるのに。

 注・・あやなく=筋がとおらない、理由がない。

鶯の たえてこの世に なかりせば 春の心は いかにか
あらまし             良寛(りょうかん)

(うぐいすの たえてこのよに なかりせば はるのこころは
 いかにあらまし)

意味・・鶯がもしこの世の中に全くいなかったならば、
    春における人の心は、どんなに物たりなく満
    たされないことであろうに。

    本歌は「世の中にたえて桜のなかりせば春の
    心はのどけからまし」(意味は下記)

 注・・たえて=絶えて、少しも、全く。
    あらまし=・・であろうに。
      

本歌です。

世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
                     在原業平

(よのなかに たえてさくらの なかりせば はるのこころは
 のどけからまし)

意味・・もしこの世の中に全く桜がなかったなら、春の人の
    心はどんなにのどかであろうか。

    春は本来のどかな季節であるが、桜を愛するあまり、
    咲くのを待ち焦がれ、散るのを惜しみ、また雨に
    つけ風につけ、気にかかって落ち着かないという気持
    を、反実仮想の機知をきかせて詠んでいる。

    親が子供の成長を心配する心と似ている。
    

ももという 名もあるものを 時のまに 散る桜にも
思ひおとさじ        紫式部(むらさきしきぶ)

(ももという なもあるものを ときのまに ちるさくら
 にも おもいおとさじ)

意味・・桃は百(もも)、百年にも通じる名を持っている
    ではないか。すぐに散る桜に劣るものか。

    桜ばかりがもてはやされるのはなぜだろうか。
    他に美しい花はいくらでもあるのに、他の花を
    歌人はめったに詠もうとしない。なぜ私たちは
    梅と桜ばかり褒めるのだろう。    

 注・・もも=「桃」と「百(もも)」を掛ける。
    時のま=時の間、少しの間。
    おとさじ=落とさじ、劣った扱いをしない。

閉じたりし 岩間の氷 うち解けば をだえの水も
影見えじやは        紫式部(むらさきしきぶ)

(とじたりし いわまのこおり うちとけば おだえの
 みずも かげみえじやは)

意味・・春になり岩間の水も解け出すでしょう。凍って
    いた水に、今ひとたび、私の姿が映ればよいの
    ですが。

    氷は人の仲がうまくいかない事を暗示していま
    す。氷が解けて途絶えていた人との交際も出来
    るようになればいいのだが、という気持を詠ん
    だ歌です。

 注・・をだえ=緒絶え、緒が切れること。解ける。
    影=水や鏡に映る姿。
    やは=反語の意を表す、・・だろうかいや・・
      ではない。

年ふれど 春にしられぬ 埋もれ木は 花の都に
すむかひぞなき     藤原顕仲(ふじわらのあきなか)

(としふれど はるにしられぬ うもれぎは はなの
 みやこに すむかいぞなき)

意味・・何年を過ごしても、春に縁の無い埋もれ木の
    ような私は、晴れやかなこの花の都に住んで
    いる甲斐などないことだ。

    詞書によると、同僚は昇進するが自分は不遇
    の身。人が羨ましく詠んだ歌です。

 注・・ふれど=旧れど、年月が経つ。古くなる。
    年ふれど春にしられぬ=何年もの間、昇進に
      洩れていることを示す。
    花の都=花盛りであると同時に、華やかな都。
    かひぞなき=甲斐ぞなき、花の都にいながら
      我が身は埋もれ木の如く、春になっても
      花が咲かないので、住む甲斐がないので
      ある。

むらさきの いろのゆかりに 藤の花 かかれる松も
むつまじきかな       藤原顕輔(ふじわらのあきすけ)

(むらさきの いろのゆかりに ふじのはな かかれるまつも
 むつまじきかな)

意味・・紫の色の縁で、藤の花がかかっている松までも
    親しく思われることだ。

    美しい藤の花を見ていると、まわりの松までも
    が素晴しく見える気持を詠んだ歌です。
    本歌は「紫の一本ゆえに武蔵野の草はみながら
    あはれとぞ見る」(意味は下記)

 注・・かかる=懸かる、垂れ下がる。

本歌です。

紫の ひともとゆえに 武蔵野の 草はみながら 
あはれとぞ見る         読み人知らず

(むらさきの ひともとゆえに むさしのの くさは
 みながら あわれとぞみる)

意味・・ただ一本の紫草があるために、広い武蔵野じゅうに
    生えているすべての草が懐かしいものに見えてくる。

    愛する一人の人がいるのでその関係者すべてに親しみ
    を感じると解釈されています。

注・・紫=紫草。むらさき科の多年草で高さ30センチほど。
      根が紫色で染料や皮膚薬にしていた。
    みながら=全部。
    あはれ=懐かしい、いとしい。

忘るなよ たのむの沢を 立つ雁も いなばの風の
秋の夕暮れ        藤原良経(ふじわらのよしつね)

(わするなよ たのむのさわを たつかりも いなばの
 かぜの あきのゆうぐれ)

意味・・田つづきの沢を飛び立って北に帰っていく雁も、
    帰っていったら、稲葉を風の吹き渡る秋の夕暮
    れを忘れないで、また来てくれよ。
 
 注・・たのむの沢=田続きの沢。
    いなば=稲葉。「往なば」を掛ける。

さくら散る 木の下風は 寒からで 空に知られぬ
雪ぞ降りける             紀貫之(きのつらゆき)

(さくらちる このしたかぜは さむからで そらに
 しられぬ ゆきぞふる)

意味・・さくらの花の散る木の下を吹く風は寒くはなくて、
    空には本当の雪ではない雪が降ったことだ。

    さくらの花の散るのが、まるで雪のようだ、という
    ことを言ったものです。

 注・・空に=空に降りける、と続く。
    知られぬ雪=雪として知られてない雪、散る花の事。

今よりは 幾つ寝ぬれば 春は来む 月日よみつつ 
待たぬ日はなし          良寛(りょうかん)

(いまよりは いくついぬれば はるはこん つきひ
 よみつつ またぬひはなし)

意味・・今から幾夜寝てしまうと、春はやって来る
    のだろうか。月日を数えながら、春の訪れ
    を待たない日とてはない。

 注・・よみ=数える。

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