名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2009年03月

道のべの 朽木の柳 春来れば あはれ昔と
しのばれぞする    菅原道真(すがわらみちざね)

(みちのべの くちきのやなぎ はるくれば あはれ
 むかしと しのばれぞする)

意味・・道のほとりの朽ち木の柳は、春が来ると、
    ああ、昔はさぞ美しく茂ったことであろう
    と思われることだ。

    作者自身の境遇を顧みて詠んだ歌です。

 注・・朽木=左遷されて世に埋もれている自分の
      姿を見ている。
    あはれ昔としのばれぞする=ああ、昔はさ
      ぞ美しく茂った事であろう。世に時め
      いた頃の自分の追懐をこめている。

百薬の 長どうけたる 薬酒 のんでゆらゆら 
ゆらぐ玉の緒     唐衣橘洲(からころもきっしゅ)

(ひゃくやくの ちょうどうけたる くすりざけ のんで
ゆらゆらゆらぐ たまのお)

意味・・百薬の長といわれる薬の酒を、たっぷり杯に
受けて飲むと、わが玉の緒の命も、ゆらゆら
と揺れ動くような、浮き立つ快さを覚える。

参考歌「初春の初子の今日の玉箒手に取るから
にゆらぐ玉の緒」(意味は下記)の歌と、
「酒は憂いの玉箒」(意味は下記)の諺を念頭に
詠んだ歌です。

 注・・百薬の長=酒は百薬の長。「長」は「ちょうど」を
掛ける。
    ちょうど=たっぷり、十分。
玉の緒=玉をつらぬいた緒、命。

参考歌です。

初春の 初子の今日の 玉箒 手に取るからに
揺らぐ玉の緒     
              大伴家持

(はつはるの はつねのけふの たまははぎ てにとる
からに ゆらぐたまのお)

意味・・新春のめでたい今日、蚕室を掃くために
玉箒を手に取るだけで、揺れ鳴る玉の緒
の音を聞くとうきうきした快さが感じら
れる。

注・・初子(はつね)=その月最初の子の日の称。
玉箒(たまははぎ)=古代、正月の初子の
日に、蚕室を掃いた玉飾りのついた
ほうき。酒の異称、憂いを掃くので。
取るからに=「からに」はわずかな事が
原因で重大な結果が起こる場合をい
う。
揺らぐ=目に揺れ動くさまが映ると共に
耳にもその触れあって鳴る音が伝わ
って来ることを意味する動詞。
玉の緒=玉箒の玉を緒に通して吊るした
ものをさすが、同時に生命を表す語
として、それを見る作者の心の躍動
緊張をも意味する。

諺です。

酒は憂いの玉箒(さけはうれいのたまぼうき)

意味・・酒を飲めば心にかかっている悩み事や
心配事も、箒で掃き清めたように無く
なってしまう、ということ。

聞く人ぞ 涙は落つる 帰る雁 鳴きてゆくなる 
あけぼのの空     藤原俊成(ふじわらのしゅんぜい)

(きくひとぞ なみだはおつる かえるかり なきてゆく
 なる あけぼののそら)

意味・・雁の涙を詠んだ歌があるが、声を聞く私のほうが
    涙が落ちてくることだ。帰る雁の鳴いていくのが
    聞こえる曙の空よ。

    雁が寂しそうに泣いて帰るように鳴くのを聞いた
    作者ももらい泣きしたくなる気持を詠んでいます。
    本歌のように、悲しみや悩みなどの物思いを心に
    秘めて詠まれたものです。
    本歌は「鳴きたる雁の涙や落ちつらむものを思ふ
    宿の萩の上の露」(意味は下記)    

 注・・聞く人ぞ涙は落ちる=鳴き渡る雁の涙が落ちたの
      だろうか、と詠んだ人がいると聞くが、私も
      涙が出て来る。本歌を念頭に詠んだもの。
    帰る雁=春になって北へ帰る雁。
    鳴く=「泣く」を掛ける。

本歌です。

鳴きわたる 雁のなみだや 落ちつらむ 物思ふ宿の
萩の上の露        藤原頼輔(ふじわらのよりすけ)

(なきわたる かりのなみだや おちつらん ものおもう
 やどの はぎのうえのつゆ)

意味・・空を鳴きながら飛ぶ雁が昨夜落としていった
    悲しみの涙なのだろう。それがちょうど我が
    家の庭の萩におかれた露になったのだが、そ
    の家の主人である私もまた物思いによって泣
    いているのだ。

    萩の露を雁の涙かと思い、その露によって作
    者の悲しみを表しています。

 鳴きわたる=鳴いて空を飛ぶ。「泣く」を掛ける。
 落ちつ=「つ」は瞬間的動作を表す、ポトリと落ちた。
 物思う=心配事などに思い悩む、物思いにふける。
 宿=庭先。

残菊や 杣の四戸に 墓二十   大阪府 浅川正

(ざんぎくや そまのよつどに はかにじゅう)

意味・・樵で生活しているこの村には四戸の家がある。
    しかし墓は二十もある。四戸なら普通は四つの
    墓でいい。村を出た人の墓なんだろう。
    勢いをなくした菊がしおれて咲き寂しさを誘っ
    ている。

 注・・杣(そま)=木を植えつけて材木を取る山。

中々に 花さかずとも 有りぬべし よし野の山の
春の明ぼの            慈円(じえん)

(なかなかに はなさかずとも ありぬべし よしのの
 山のはるのあけぼの)

意味・・なまじっか桜の花が咲いていなくても、それは
    それでよいと思う。えも言われない吉野山の春
    の曙の空の美しさよ。

 注・・中々に=いっそう、むしろ。

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