名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2009年03月

梅の花 散らまく惜しみ 我が園の 竹の林に 
うぐひす鳴くも     安氏奥島(あじのおきしま)

(うめのはな ちらまくおしみ わがそのの たけのはやしに
 うぐいすなくも)

意味・・梅の花の散るのを惜しんで、この我等の園の
    竹林で、鶯がしきりに鳴いている。

 注・・鳴くも=「も」は詠嘆を表す。鳴いているなあ。

咲いたって散るわ変る値撤退さ  
               嶋村桂一(しまむらけいいち)
回文です。
(サイタッテ チルワカワルチ テッタイサ)

意味・・美しく咲いた花は散るものだ。最盛期もいつか
    は過ぎてしまう。その時はいさぎよく後進の者
    に譲ろう。

    次の歌の気持と似ています。
    「いざさらば我も散りなむひとさかりありなば
     人に憂きめ見なむ」(意味は下記)

 注・・変る値=この前に、「最高になると」の言葉を
      補う。最盛期が過ぎると。

いざさくら 我も散りなむ ひとさかり ありなば人に
憂きめ見えなむ       承均法師(ぞうくほうし)

(いざさくら われもちりなん ひとさかり ありなばひとに
 うきめみえなん)

意味・・さあ桜の花よ。おまえが潔く散るように、私も
    いつかは散り果てよう。物事はひとたび盛りの
    時があると、その後できっと人にみじめな姿を
    見られるだろうから。

 注・・ひとさかり=一時の盛り。最盛期。
    憂きめ=つらいこと。みじめなこと。
    見え=見られ

見ても知れ いづれこの世は 常ならむ 後れ先だつ
花も残らず           良寛(りょうかん)

(みてもしれ いずれこのよは つねならん おくれ
 さきだつ はなものこらず)

意味・・見て理解しなさい。どのみちこの世という
    ものは、はかなく変わりやすいものだ。後
    に残る花も、やがては皆残らずに散ってし
    まうものである。

    人間も遅かれ早かれ死んでしまうものであ
    る。生きている間は自分の納得のいく生き
    方をしたいものだ。

 注・・いづれ=どのみち。
    常ならむ=常ではない、変わりやすい。

松の尾の 松の下道 思うどし 歩きしことは 
今も忘れじ          良寛(りょうかん)

(まつのおの まつのしたみち おもうどし あるきしことは
 いまもわすれじ)

意味・・松の尾にある松林の下道を、仲良くしている人と
    歩いた楽しさは、今でも忘れられないことだ。

 注・・松の尾=新潟県巻町松野尾。
    どし=同士、仲間。

どうしてもなくて七癖しうとの目   収月(しゅうげつ)

(どうしても なくてななくせ しゅうとのめ)

意味・・どうしても、姑の目から逃げることは出来ない。
    人それぞれに癖がある。悪い所、欠点を探す気に
    なれば、いくらでも出てくるはずだから、その意
    地悪い目を逃れる人間はありはしない。
    
    共同生活が出来るのは、愛情に支えられてあばた
    も笑窪の時代だ、という気持を詠む。

 しうとの目=「しゅうとめ(姑)」と「姑の目」を掛ける。

知らざりき 雲居のよそに 見し月の かげを袂に
宿すべしとは            西行(さいぎょう)

(しらざりき くもいのよそに みしつきの かげをたもとに
 やどすべしとは)

意味・・思っても見なかったことだ。雲居はるか彼方
    に仰ぎ見る月にも比すべき高貴な女性に恋を
    し、叶わぬ恋ゆえの涙に濡れる袖に月を宿さ
    ねばならぬとは。

    身分がかけ離れた人に恋をしたが、叶わない
    恋と知り、泣きたくなった気持を詠んだ歌です。

 雲居=雲のある所、空。「雲居の月」は高貴な人に
    たとえる。

かくばかり 経がたく見ゆる 世の中に うらやましくも
澄める月かな        藤原高光(ふじわらたかみつ)

(かくばかり へがたくみゆる よのなかに うらやましくも
 すめるつきかな)

意味・・このように過ごしにくく思える世の中に、
    まことにうらやましくも、何の悩みもない
    ように澄んでいる月であることよ。

    澄んだ月の光を見て、その清澄な光に対し
    現実生活の悩み多いことを痛切に感じ、月
    が羨ましいと言ったものです。

劫初より つくりいとなむ 殿堂に われも黄金の
釘一つ打つ        与謝野晶子(よさのあきこ)

(ごうしょより つくりいとなむ でんどうに われも
 こがねの くぎひとつうつ)

意味・・はるか昔の、世の初めから、人類が造り営ん
    で来た美の世界、芸術の立派な建物に、いま
    自分も、一本ではあるが、輝く黄金の釘を打
    つのである。

 注・・劫初=この世の初め。
    殿堂=高く立派な建物。ここでは芸術の殿堂。

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