名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2009年05月

鶯に 夢さまされし 朝げかな  良寛(りょうかん)

(うぐいすに ゆめさまされし あさげかな)

意味・・短い春の夜は明けやすく、見続けていた夢も
    美しい鶯の声によって覚まされた。名残り惜
    しい夢ではあったが、鶯のさえずる夜明けは、
    まことに素晴らしいことだ。

 注・・朝げ=朝明け。夜明け。

作者・・良寛=1758~1831。新潟県
      出雲町に左門泰雄の長子として
      生まれる。幼名は栄蔵。

ひよりぞと 思ひて出づれば 風さむし 全く好き日は
日にも得がたし 橘曙覧(たちばなあけみ)

(ひよりぞと おもいいずれば かぜさむし またくよき
 ひは ひにもえがたし)

意味・・良い天気だなあと思って出かけたのだが、
    風が出て来て寒くなった。全く気持ちの
    好い天気は一日の中でも得がたいものだ。

    この世の中に完全なものはない、という
    気持ちを詠んでいます。

 注・・ひよりぞと=良き日和だと。良きを補う。
    日にも得がたし=一日の日の中でも得が
      たい。

作者・・橘曙覧=1812~1868。国文学者。家業を
     異母弟に譲り25歳頃隠棲。「独楽吟」
     等の歌集がある。

天の川 苗代水に せきくだせ あま下ります
神ならば神         能因法師(のういんほうし)

(あまのがわ なわしろみずに せきくだせ あまくだり
 ます かみならばかみ)

意味・・天の川から苗代水を堰(せ)いて地に落として
    下さい。天から降臨して、雨も降らせもする
    神様ならば、その神よ。

    伊予の国(愛媛県)で、正月から四月まで雨が
    降らず苗代も出来ないので、歌を詠み雨が降
    ることを祈ったものです。   

 注・・あま下り=「天下り」で天から降臨する意に
      「雨降(くだ)り」の意を掛ける。

作者・・能因法師=988~1050。俗名橘永愷(ながやす)。
      中古36歌仙。著書「能因歌枕」など。

吹きいづる はげしの風に むらくもの はれゆくあとの
月まどかなり       内藤政俊(ないとうまさとし)

(ふきいずる はげしのかぜに むらくもの はれゆく
 あとの つきまどかなり)

意味・・激しい風が吹き付けて暗雲を取り払った。
    その後の月の光のさわやかなことだ。

    幕末の挙田藩(ころもたはん・愛知県豊田市)
    は財政難で苦しんでいた。それは賄賂をもらい
    浪費する家老たちがいたからだ。そのあげく、
    農民に増税しなければならなかった。藩の塾長
    で正義感の強い竹村梅斎がこの問題に取り組ん
    だ。その結果成功するのだが、梅斎は自殺に追
    い込まれた。これを惜しみ、また梅斎の功績を
    たたえて藩主の政俊が詠んだ歌です。

 注・・むらくも=群雲、一群の雲。

作者・・内藤政俊=徳川幕末の挙田(ころもた)藩主。

山彦の こたふる山の ほとどぎす 一声なけば
二声ぞきく         能因法師(のういんほうし)

(やまびこの こたえるやまの ほとどきす ひとこえ
 なけば ふたこえぞきく)

意味・・山のほとどぎすは山彦が答えるので、
    一声鳴くと二声鳴くように聞こえる。

    ほとどぎすは一声だけ鳴くものとされ
    ていたので、二声聞くのが風流人の願
    望だった。

作者・・能因法師=988生れ。俗名橘永愷。
      出家して能因。中古36歌仙。

夕立の 雲もかからず 留守の空  
               向井去来(むかいきょらい)

(ゆうだちの くももかからず るすのそら)

補注・・京都に妻を残し、長崎の里に帰る時の句。

意味・・今は夏だ。いつ夕立が来るか分からない。
    夕立が来る時は、必ず青い空がにわかに
    曇って入道雲がモクモクトと湧き立って
    来る。しかし、今見る京都には雲一つ無
    い。空よ、どうかいつまでもこのままで
    いてほしい。留守の家族に激しい風や雨
    を降らせるようなことのないようにして
    ほしい。

    夕立は自然現象だけではない。女所帯に
    襲いかかるいろいろな悪漢や暴行などに
    襲われないように、去来はひたすら祈り
    続けた。

作者・・向井去来=1651~1704。芭蕉門下10哲
      の一人。野沢凡兆と「猿蓑」を編む。

願はくは われ春風に 身をなして 憂いある人の
門をとはばや     佐々木信綱(ささきのぶつな)

(ねがわくは われはるかぜに みをなして うれい
 あるひとの かどをとわばや)

意味・・願うことには、どうかわが身をかろやかな
    春風と化して、憂いを抱いている人の門を
    訪れて、その悲しみの気持ちを紛らわして
    あげたいものだ。

    作者の自注に「人の心に深く秘められた憂
    悶を晴らせることは、歌道の徳の一つであ
    るという信念から歌ったものである」と書
    かれています。

 注・・憂い=心配、悲しみ、悩み。
    とはばや=問はばや。たずねたい。

作者・・佐々木信綱=1872~1953。国文学者。古典
      や万葉集の研究に功績を残す。

憂き瀬にも うれしき瀬にも 先に立つ 涙はおなじ
涙なりけり     藤原顕方(ふじわらのあきかた)

(うきせにも うれしきせにも さきにたつ なみだは
 おなじなみだなりけり)

意味・・悲しい時も嬉しいときも涙が先立って
    こぼれるものだ。この涙は同じ涙なの
    に。

作者・・藤原顕方=生没未詳。

ちち君よ 今朝はいかにと 手をつきて 問ふ子を見れば
死なざりけり       落合直文(おちあいなおふみ)

(ちちきみよ けさはいかにと ておつきて とうこを
 みれば しなざりけり)

意味・・「お父様、けさはご機嫌いかがですか」と畳の
    上にかしこまり、手をついて、朝の挨拶をする
    わが子を見ると、かりそめの病に臥している我
    が身ながら、これくらいのことでは死なれない、
    もっともっと長生きせねばこの子たちがかわい
    そうだという気持ちがひしひし起こってくる事
    だ。

 注・・いかにと=「おはしますか」等の句を省略。

作者・・落合直文=1861~1903。明治21年「老女白菊の
      花」を発表して国文学の普及に尽くす。



さしのぼる 朝日に君を 思ひいでん かたぶく月に
我を忘るな       藤原通俊(ふじわらのみちとし)

(さしのぼる あさひにきみを おもいいでん かたぶく
 つきに われをわするな)

詞書・・通俊が筑紫(福岡県)に赴任する時に藤原公
    実(きんざね)に詠んで贈った歌。

意味・・東にのぼる朝日を見てはあなたを思い出し
    ましょう。あなたも西に沈む月を見て私を
    忘れないで下さい。

    遠くに転勤するような時、親しい友達の想
    いの気持ち詠んでいます。    

 注・・のぼる朝日=東方を示し、京を指す。
    かたぶく月=西方を示し、筑紫を指す。

作者・・藤原通俊=1047~1099。権中納言、従二位。
      「後拾遺集」の撰者。

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