名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2009年05月

夕立の 雲もかからず 留守の空  
               向井去来(むかいきょらい)

(ゆうだちの くももかからず るすのそら)

補注・・京都に妻を残し、長崎の里に帰る時の句。

意味・・今は夏だ。いつ夕立が来るか分からない。
    夕立が来る時は、必ず青い空がにわかに
    曇って入道雲がモクモクトと湧き立って
    来る。しかし、今見る京都には雲一つ無
    い。空よ、どうかいつまでもこのままで
    いてほしい。留守の家族に激しい風や雨
    を降らせるようなことのないようにして
    ほしい。

    夕立は自然現象だけではない。女所帯に
    襲いかかるいろいろな悪漢や暴行などに
    襲われないように、去来はひたすら祈り
    続けた。

作者・・向井去来=1651~1704。芭蕉門下10哲
      の一人。野沢凡兆と「猿蓑」を編む。

願はくは われ春風に 身をなして 憂いある人の
門をとはばや     佐々木信綱(ささきのぶつな)

(ねがわくは われはるかぜに みをなして うれい
 あるひとの かどをとわばや)

意味・・願うことには、どうかわが身をかろやかな
    春風と化して、憂いを抱いている人の門を
    訪れて、その悲しみの気持ちを紛らわして
    あげたいものだ。

    作者の自注に「人の心に深く秘められた憂
    悶を晴らせることは、歌道の徳の一つであ
    るという信念から歌ったものである」と書
    かれています。

 注・・憂い=心配、悲しみ、悩み。
    とはばや=問はばや。たずねたい。

作者・・佐々木信綱=1872~1953。国文学者。古典
      や万葉集の研究に功績を残す。

憂き瀬にも うれしき瀬にも 先に立つ 涙はおなじ
涙なりけり     藤原顕方(ふじわらのあきかた)

(うきせにも うれしきせにも さきにたつ なみだは
 おなじなみだなりけり)

意味・・悲しい時も嬉しいときも涙が先立って
    こぼれるものだ。この涙は同じ涙なの
    に。

作者・・藤原顕方=生没未詳。

ちち君よ 今朝はいかにと 手をつきて 問ふ子を見れば
死なざりけり       落合直文(おちあいなおふみ)

(ちちきみよ けさはいかにと ておつきて とうこを
 みれば しなざりけり)

意味・・「お父様、けさはご機嫌いかがですか」と畳の
    上にかしこまり、手をついて、朝の挨拶をする
    わが子を見ると、かりそめの病に臥している我
    が身ながら、これくらいのことでは死なれない、
    もっともっと長生きせねばこの子たちがかわい
    そうだという気持ちがひしひし起こってくる事
    だ。

 注・・いかにと=「おはしますか」等の句を省略。

作者・・落合直文=1861~1903。明治21年「老女白菊の
      花」を発表して国文学の普及に尽くす。



さしのぼる 朝日に君を 思ひいでん かたぶく月に
我を忘るな       藤原通俊(ふじわらのみちとし)

(さしのぼる あさひにきみを おもいいでん かたぶく
 つきに われをわするな)

詞書・・通俊が筑紫(福岡県)に赴任する時に藤原公
    実(きんざね)に詠んで贈った歌。

意味・・東にのぼる朝日を見てはあなたを思い出し
    ましょう。あなたも西に沈む月を見て私を
    忘れないで下さい。

    遠くに転勤するような時、親しい友達の想
    いの気持ち詠んでいます。    

 注・・のぼる朝日=東方を示し、京を指す。
    かたぶく月=西方を示し、筑紫を指す。

作者・・藤原通俊=1047~1099。権中納言、従二位。
      「後拾遺集」の撰者。

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