名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2010年02月

音にのみ きくの白露 夜はおきて 昼は思ひに
あへず消ぬべし    素性法師(そせいほうし)

(おとにのみ きくのしらつゆ よるはおきて ひるは
 おもいにあえず けぬべし)

意味・・あなたのうわさばかり聞く私は、菊に置かれた
    白露と同様で、夜は起き、昼は露が日に消える
    ように、切なさに耐えられず、消え入ってしま
    いそうです。

 注・・きく=「聞く」と「菊」を掛ける。
    おきて=「置きて」と「起きて」を掛ける。
    思ひあへず=思いに耐えられない。「思ひ」と
     「日」を掛ける。
    消ぬ=「自分が消え」と「露が消え」を掛ける。

作者・・素性法師=9世紀後半から10世紀前半頃の人。
     

長しとも 思ひぞはてぬ 昔より 逢ふ人からの 
秋の夜なれば   凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)

(ながしとも おもいぞはてぬ むかしより あうひと
 からの あきのよなれば)

意味・・長いものと思い込むわけにはいかないなあ。
    昔から逢う人次第で長くも短くも思われる
    秋の夜だから。
 
    逢瀬の喜びの一方、貴重な時間が早く過ぎ
    去っていく残念さを詠んでいます。

 注・・思ひぞはてぬ=心に決められない、判断が
     出来ない。

作者・・凡河内躬恒=生没年未詳。古今集の撰者の
     一人。

久方の 天の香具山 この夕 霞たなびく 
春立つらしも        読人知らず

(ひさかたの あめのかぐやま このゆうべ かすみ
 たなびく はるたつらしも)

意味・・天の香具山に、今日の夕方はじめて霞が
    かかっている。ああ、これでいよいよ春
    になったようだ。

 注・・久方=天の枕詞。
    天の香具山=奈良県橿原(かしはら)市に
     ある山。天上から降りて来たという神
     話から天を冠する。
    春立つ=立春(2月4日)を意識した語。

わたの原 波にも月は 隠れけり 都の山を
何いとひけん         西行(さいぎょう)

(わたのはら なみにもつきは かくれけり みやこを
 なにいといけん)

意味・・海路の旅では山のように高くない波にも、
    月は隠れてしまった。それなのにどうして
    都の山を月を隠すといっていやになったの
    だろう。

    西行が厭世気分になり出家直後の気持ちを
    詠んだ歌です。青い鳥(幸せ)は身近な所に
    いるという事を詠んでいます。

 注・・わたの原=大海、海原。
    波にも=遮る山もない海上の波にも。
    いとふ=嫌う、世を避ける。
    厭世(えんせい)=希望をなくし生きるのが
     嫌になること。

作者・・西行=1118~1190。鳥羽院の北面武士で
     あったが、23歳で出家。新古今集に一番
     多く入首。「山家集」他。

木枯や市に業の琴をきく
             加舎白雄(かやしらお)

(こがらしや いちにたづきの ことをきく)

意味・・こがらしの吹きすさぶ冬の町のなかで、風の
    音に混じって美しい琴の音が聞える。

    もとはかなりの身分の者か、生活の為に街角
    で琴を弾いて物乞いをしている情景です。

 注・・木枯=初冬に吹く冷たい空っ風。
    市(いち)=市井、人の集まる町なか。
    業=生業、生活のための職業。
    琴=持ち運びの出来る小型の琴が当時の文人
     たちに愛されていた。

作者・・加舎白雄=1738~1791。

河上に 洗ふ若菜の 流れ来て 妹があたりの 
瀬にこそ寄らめ        読人知らず

(かわかみに あらうわかなの ながれきて いもが
 あたりの せにこそよらめ)

意味・・河の上流で洗う若菜の一茎が流れ流れて、
    下流で物を洗う乙女のもとに流れ寄るよう
    に、私も恋しいあの女のあたりに寄り付い
    て逢って楽しみたいものだ。

    河で少女が洗濯している所へ、上流で洗っ
    た菜っ葉のひとひらが流れついた情景を見
    て詠んだ歌です。

物いはば とふべきものを 桃の花 いくよか経たる
滝の白糸          弁乳母(べんのめのと)

(ものいわば とうべきものを もものはな いくよか
 へたる たきのしらいと)

意味・・もし桃の花が口をきけるのだったら質問を
    しようものを、この美しい滝の白糸はいく
    世代を経ているのだろうと。

 注・・物いはば=「史記」の「桃李言わず下自ら
     渓を成す」を踏まえたもの。(意味は
     下記参照)
    経たる=経過する。

作者・・弁乳母=生没年未詳。1068年ごろ陽門院の
     乳母となる。

参考の言葉です。

桃李言わず、下自ら渓を成す

(とうりものいわず したおのずからみちをなす)

意味・・桃や李(すもも)は口をきいて人を招くよう
    なことはしないが、美しい花や実のゆえに、
    人が争ってやって来るので、その下に自然
    に小道が出来る。同様に徳のある立派な人
    のもとには、招かなくても大勢の人が慕い
    寄るものだ。
     

降る雪は かつぞ消ぬらし あしひきの 山のたぎつ瀬
音まさるなり             読人知らず

(ふるゆきは かつぞけぬらし あしひきの やまの
 たぎつせ おとまさるなり)

意味・・雪は降っているが、それは片っ端から消えて
    いるに違いない。解けた水が流れ込み、山の
    急流の音がよけいに大きく聞えてくる。
    
 注・・あしひきの=山の枕詞。
    たぎつ瀬=滝つ瀬。激つ瀬。激流。

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