名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2010年03月

あらたまの 年をへつつも 青柳の 糸はいづれの 
春かたゆべき    坂上望城(さかのうえのもちき)

(あらたまの としをへつつも あおやぎの いとは
 いずれの はるかたゆべき)

意味・・糸というものは年が経てば切れるものだが
    多くの年を経ながらも、青柳の糸だけは、
    いつの春にも絶えそうにないことだ。

    「糸」は人との結びつきを暗示しています。

 注・・あらたまの=「年」「月」などに掛かる枕詞。
    いづれの春かたゆべき=いつの春に絶えるだ
     ろうか、絶えないことだ。「か」は反語の
     係助詞。「たゆ」は「絶ゆ」。「べき」は
     当然可能といった意味、そうなりうるはず
     である。

作者・・坂上望城=生没年未詳。十世紀前半の人。
     石見守・従五位。
     
出典・・後拾遺和歌集・74。
    

月やあらぬ 春や見し世の それながら 眺めしのみや
忘れ果つらむ             散逸物語

(つきやあらぬ はるやみしよの それながら ながめし
 のみや わすれはつらん)

意味・・月は以前見た時の月ではないのか、昔のままの
    月だ。春も以前に見た時のままの春であるのだ
    が、いっしょに眺めたことだけ、あなたはすっ
    かり忘れてしまったのですね。

    本歌は、
    「月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身一つは
    もとの身にして」です。(意味は下記参照)

 注・・散逸物語=散らばって今は無くなっている物語。

本歌です。

月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは 
もとの身にして     在原業平(ありはらなりひら)

(つきやあらぬ はるやむかしの はるならぬ わがみ
ひとつは もとのみにして)

意味・・この月は以前と同じ月ではないのか。春は去年
    の春と同じではないのか。私一人だけが昔のま
    まであって、月や春やすべてのことが以前と違
    うように感じられることだ。

    しばらく振りに恋人の家に行ってみたところ、
    すっかり変わった周囲の光景(すでに結婚して
    いる様子)に接して落胆して詠んだ歌です。

花見ると 家路におそく かへるかな 待ちどきすぐと
妹いふらん        平兼盛(たいらのかねもり)

(はなみると いえじにおそく かえるかな まちどき
 すぐと いもいうらん)

意味・・花を見ていて遅くなって家路に帰るのだが、
    さぞかし家では、「帰る予定の時刻が過ぎた
    のに・・」と妻が心配して言っているだろう
    なあ。

 注・・花見ると=花見をしていて。「と」は格助詞、
     「として」「と言って」「と思って」。
    待ちどき=待ち時。帰るはずの時刻として妻
     が待っている時間。
    妹=ここでは妻。

作者・・平兼盛=~990。父の代に平姓を名乗る。駿河
     守。三十六歌仙の一人。

     

花見てぞ 身のうきことも わすらるる 春はかぎりの 
なからましかば    藤原公経(ふじわらのきみつね)

(はなみてぞ みのうきことも わすらるる はるは
 かぎりの なからましかば)

意味・・花を見ることで我が身の憂さも自然と忘れ
    られる。花の咲く春という季節は終わりが
    なかったらよかろうになあ。

 注・・うき=憂き。つらいこと。せつないこと。
    かぎり=限り。限度、限界。

作者・・藤原公経=生没年未詳。少納言・従四位。

高砂の 尾の上の桜 咲きにけり 外山の霞 
立たずもあらなむ    大江匡房(おおえのまさふさ)

(たかさごの おのえのさくら さきにけり とやまの
 かすみ たたずもあらなん)

意味・・高い山の峰に桜が咲いたことだ。人里近い
    山の霞よ、桜が見えなくなるから立たない
    でほしい。

    はるかに望む山桜を賞美する心を詠んだ歌
    です。

 注・・高砂=山の意。
    尾の上=山の頂。
    外山=人里に近い低い山。

作者・・大江匡房(まさふさ)=1041~1111。当時の
     代表的な詩文家。

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