名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2010年08月

われのみや あはれと思はむ きりぎりす 鳴く夕かげの
大和なでしこ        
               素性法師(そせいほうし)
                (古今和歌集・244)
(われのみや あわれとおもわん きりぎりす なく
 ゆうかげの やまとなでしこ)

意味・・これを私だけが「きれいだなあ」と思って見る
    だけで、むなしく散るにまかせるのだろうか。
    こおろぎが寂しく鳴くなかで、夕日を浴びた
    大和なでしこの花を。

    美しさを自分一人で見て終らせる残念さ、寂し
    さの思いを詠んでいます。

 注・・われのみや=「や」は反語の意。
    あはれ=しみじみと心を打つさま。すてきだ。
    きりぎりす=今のこおろぎ。
    夕かげ=夕日。
    大和なでしこ=河原撫子。

作者・・素性法師=~909頃。遍照僧正の子。

月影の 宿れる袖は せばくとも とめて見せばや
飽かぬ光を           (源氏物語・須磨)

(つきかげの やどれるそでは せばくとも とめて
 みせばや あかぬひかりを)

意味・・月の光の宿っている私の袖は狭くとも、留めて
    見たいものです。飽きることの無い美しい光を。
    ものの数でもない私ですが、見飽きない源氏様
    を引き留めておきたいものです。

    須磨で源氏との別れが近くなり、再び会う事が
    出来るだろうかと、悲しみの涙を流しながら心
    細くなり詠んだ歌です。

    悲しみの涙顔の表情はこの歌です。

    「合ひに合ひて物思ふころのわが袖に宿る月へ
    濡るる顔なる」 (意味は下記参照)  

 注・・月影の宿れる袖=涙で袖が濡れているので、月
     の影が映るという誇張した表現。
    光=光源氏を掛ける。

参考歌です。

合ひに合ひて 物思ふころの わが袖に 宿る月さへ
濡るる顔なる        伊勢(いせ)
                (古今和歌集・756)

(あいにあいて ものおもうころの わがそでに やどる
 つきさえ ぬるるかおなる)

意味・・私の心にぴったりだ。物思いに沈んでいる袖の
    涙に映った月影までが私に負けずに涙に濡れた
    ような顔つきをしているよ。

 注・・合ひに合ひて=私の心によく合って。同じ動詞
     を重ねてその間に「に」を用いると意味を強調
     することになる。
    物思ふ=何となく憂鬱に。「物」は漠然とした
     ものをさす。

作者・・伊勢=生没年未詳。大和守藤原継影の娘。父が
     890年頃、伊勢守であったので伊勢といった。

みなれ棹 とらでぞくだす 高瀬舟 月の光の
さすにまかせて      源師賢(みなもとのもろかた)
               (後拾遺・836)

(みなれざお とらでぞくだす たかせぶね つきの
 ひかりの さすにまかせて)

詞書・・「船中の月」という題で詠みました歌。

意味・・月の光のさすのに任せて、みなれ棹を取ら
    ないで高瀬舟を川下に下している。

    明るく美しい月なので、舟を漕ぐより、月
    を思う存分観て楽しもう。

 注・・みなれ棹=水馴れ棹。水にひたし使い慣れ
     た棹。棹は舟を漕ぐ時に用いる棒。
    くだす=下す。舟を川下にくだすこと。
    高瀬舟=底は平たくて浅い舟。
    さすに=「光が差す」と「棹をさす」の掛詞。

作者・・源師賢=1035~1081。蔵人頭、正四位下。
   

長者の子しかも美人の明き盲    求笑(きゅうしょう)
                   (二葉の松)

(ちょうじゃのこ しかもびじんの あきめくら)

前句・・かわゆがれて暮らすなりけり

意味・・可愛いがられる子供の第一条件は、金持ちの
    家に生れることだが、その娘が美しいことも
    二番目の条件。さらに、その子が、不幸にし
    て、明き盲である不憫(ふびん)さが重なる時、
    親の愛情が集中することになる。

    美しい盲女の飾られた生活、それ故に哀れは
    いっそう深い気持を詠んでいます。

 注・・長者=銀五百貫(2億5千万円)以上の金持ち
     を分限とし、千貫以上を長者といった。
    明き盲=文盲(文字の読めない人)でなく、目
     の明いて見えない盲人。

作者・・求笑=伝未詳。江戸時代の初期、1690年頃
     活躍した俳人。
    

あらそはぬ 風の柳の 糸にこそ 堪忍袋
ぬふべかりけれ    鹿都部真顔(しかのつべのまがお)
             (狂歌才蔵集)

(あらそわぬ かぜのやなぎの いとにこそ かんにん
 ぶくろ ぬうべかりけれ)

意味・・風に争うこともなく、吹くままになびいている
    柳の枝。あの柳の糸でこそ、めったに破っては
    ならない人間の堪忍袋を縫うべきだ。

    糸と袋の見立ての面白さをふまえた処世訓です。

 注・・柳の糸=細長い柳の枝を糸に見立てた語。
    堪忍袋=堪忍する心の広さを袋に例えた語。

作者・・鹿都部真顔=1753~1829。北川嘉兵衛。狂歌
     四天王の一人。

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