名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2010年10月

時ありて 花も紅葉も 一さかり あはれに月の 
いつも変らぬ
             藤原為子(ふじわらのためこ)
              (風雅和歌集・159)

(ときありて はなももみじも ひとさかり あわれに
 つきの いつもかわらぬ)

意味・・ある決まった時節があって、花も紅葉も
    ひとときの盛りを見せるものだが、あわ
    れ深いことに、月はいつもかわらぬ姿で
    空にかかっていることだ。

    参考句です。

   「樫の木の花にかまわぬ姿かな」 芭蕉
    (意味は下記参照)

 注・・あはれ=情趣が深い、しみじみと心を
     打つさま。
    時=季節。

作者・・藤原為子=生没年未詳。鎌倉時代の歌人。

参考です。

樫の木の 花にかまはぬ 姿かな  
               芭蕉(ばしょう)

(かしのきの はなにかまわぬ すがたかな)

意味・・春の百花は美しさを競っているが、
    その中であたりにかまわず高く黒々
    とそびえる樫の木は、あでやかに
    咲く花よりもかえって風情に富む
    枝ぶりであることだ。

    前書きは「ある人の山家にいたりて」、
    山荘の主人が世の栄華の暮らしに混
    じることなく、平然として清閑を楽
    しんでいるさまを樫の木の枝ぶりに
    例えて挨拶として詠んだ句です。

折ふしよ 鵙なく秋も 冬枯れし 遠きはじ原 
紅葉だになし
               正徹(しょうてつ)
                (正徹物語・32)

(おりふしよ もずなくあきも ふゆがれし とおき
 はじはら もみじだになし)

(お・・・よ も・・・・・も ふ・・・し と・・
 ・・・ら も・・・・・し)

詞書・・「おもふともよもしらじ」(私が思っていて
    も相手は決してそれを知るまい)の題で。

意味・・今の季節は、鵙の鳴く秋も過ぎ、冬枯れて
    しまって、遠くのはじ原の紅葉まで見えな
    くなっている。

    沓冠(くつかむり)の折句の歌で、十の文字
    を歌の各句の頭と末に入れて詠む技法的な
    歌です。この歌では「おもふともよもしら
    じ」で題と歌の内容は関わらない。

 注・・折ふし=折節。その時々、季節。
    はじ原=ハゼの生えている原。ハゼは美し
     く紅葉する。

作者・・正徹=1381~1459。字は清巌。東福寺の書
     記を勤める。歌集に「草根集」、「正徹
     物語」。

    

秋さびし もののともしさ ひと本の 野稗の垂穂
瓶にさしたり 
             古泉千樫(こいずみちかし)
               (川のほとり)

(あきさびし もののともしさ ひともとの のびえの
 たりほ かめにさしたり)

意味・・もはや全く秋となってしまい、情趣も深く
    心にひかれてくる。何となく一本の野稗の
    垂穂を花瓶にさしたことだ。

    野稗の垂穂を瓶にさし、静けさの中に気持
    が安らいでいくことを詠んでいます。

 注・・さびし=然し。「さぶ・然ぶ」の過去形。
     それらしくなった。
    ともし=羨し。慕(した)わしい。
    野稗=禾本科(かほんか)キビ属の一年草。
     秋に褐色のすすきをそなえた小穂が出る。
    瓶=花瓶。

作者・・古泉千樫=1886~1927。42歳。伊藤左千夫
     門下。小学校教員。歌集「川のほとり」。

防人に 行くは誰が背と 問ふ人を 見るがともしさ
物思いもせず
            昔年(さきつとし)の防人
              (万葉集・4425)

(さきもりに ゆくはたがせと とうひとを みるが
 ともしさ ものおもいもせず)

意味・・「防人に行くのは誰の主人なの」、と尋ねて
    いる人を見るのが何ともうらやましい。何の
    気兼ねも心配もしないで。

    自分の夫を防人に出さねばならない立場と、
    そうでない人の立場。人の持つ運命的な悲し
    みは当事者以外に分からない。無遠慮に「ど
    このだれ」と尋ねている人の言葉に胸の張り
    裂けるような辛さと悲しみが湧いてくる。

 注・・誰が背=誰の夫。「背」は女性から親しい
     男性、夫をさす。
    ともしさ=「ともし」はうらやましいの意。
    物思いもせず=問うている人が、物思いを
     しない。
    昔年(さきつとし)=755年より昔年、の意。

大方の 秋の別れも 悲しきに 鳴く音な添えそ
野辺の松虫
               源氏物語・賢木
               (風葉和歌集・1122)

(おおかたの あきのわかれも かなしきに なくね
 なそえそ のべのまつむし)

意味・・一般的な秋との別れも悲しいのに、そのうえ
    私はあなたと別れねばならない。野辺の松虫
    よ、鳴き声を加えていっそう悲しませないで
    ほしい。

 注・・大方=一般的に、だいたい。

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