名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2010年12月

目も離れず 見つつ暮らさん 白菊の 花より後の
花しなければ
              伊勢大輔(いせのだいふ)
               (後拾遺和歌集・349)

(めもかれず みつつくらさん しらぎくの はなより
 のちの はなしなければ)

意味・・目も離さず、じっと眺めて日を暮らそう。この
    白菊の花より後に咲く美しい花は無いのだから。

 注・・花しなければ=美しい花がないので。「し」は
     上の語を強調する助詞。

作者・・伊勢大輔=生没年未詳。1008年頃、一条天皇の
     皇后・藤原彰子に出仕。筑前守高階成順の妻。

おもふこと かくてや終に やまがらす 我がかしらのみ
しろくなれれば
             小沢濾庵(おざわろあん)
               (六帖詠藻)

(おもうこと かくてやついに やまがらす わがかしら
 のみ しろくなれれば)

意味・・思うことも実現しないまま、こうして終わって
    しまうのか。山烏よ、お前の頭は白くならない
    で、私の頭ばかりが白くなっていく。

 注・・やまがらす=「終にやまむ」を「やまがらす」に
     掛ける。

作者・・小沢濾庵=1723~1801。和歌の指導のみで生活を
     送ったので貧しかった。「六帖詠藻」。


秋果てて わが身時雨に ふりぬれば 事の葉さへに
うつろひにけり
              読人知らず
              (後撰和歌集・450)

(あきはてて わがみしぐれに ふりぬれば ことのは
 さえに うつろいにけり)

意味・・秋が終わって時雨が降るとともに、我が身も古く
    なってしまったせいか、木の葉が色変わりするの
    に併せて、あなたの言葉もすっかり様変わりして
    しまったですね。

    小野小町の次の歌の異伝と言われています。
    「今はとてわが身時雨にふりぬれば言の葉さへに
    移ろひにけり」 (意味は下記参照)

 注・・秋果てて=あなたが私を「飽き果てて」を掛ける。
    ふり=「降り」と「古り」を掛ける。
    事の葉さへに=木の葉だけでなく、相手の言の葉
     までが散って枯れて行くの意。
    うつろひ=最高の状態の物が衰えて行くこと。
     紅葉して枯れる状態。


小野小町の歌。

今はとて わが身時雨に ふりぬれば 言の葉さへに 
移ろひにけり
            小野小町(おののこまち)
              (古今和歌集・782)

(いまはとて わがみしぐれに ふりぬれば ことのは
 さえに うつろいにけり)

意味・・もうこれまでだとおっしゃる。私も、あなたに
    とっては古くなってしまい、時雨にあった木の
    葉のように、以前のあなたの約束の言葉も色変
    りしてしまったものですね。

 注・・今はとて=もはやお終いだ。
    ふり=「降り」と「古り」の掛詞。
    言の葉=木の葉を連想させ、相手の気持ちや言葉
     が変る事を紅葉になぞらえている。
    移ろひ=色があせてゆく。

作者・・小野小町=9世紀後半の人。六歌仙の女流歌人。


照る月の 冷えさだかなる あかり戸に 眼は凝しつつ
盲ひてゆくなり
           北原白秋(きたはらはくしゅう)
             (黒檜・くろひ)

(てるつきの ひえさだかなる あかりどに めは
 こらしつつ しいてゆくなり)

意味・・ガラス戸に照っている月の光がいかにも冷え
    冷えとした冷たい感じは、盲(めし)いてゆく
    眼にもはっきり分かるのだが、この冷え冷え
    したガラス戸を、よく見えない眼で見つめな
    がら、この冷たい世界で、だんだん自分は盲
    人になってゆくのだ。

    眼底出血して入院している時に詠んだ歌です。
    失明への恐れという事態になって自分の気持
    を整理しています。    

 注・・さだかなる=はっきりしているの意。
    あかり戸=明かりをとる戸の意でガラス戸。
    凝(こら)しつつ=「凝す」はじっと見つめる。
    盲(し)ひて=「しふ」(廃ふ)は器官の働きが
     なくなる意。「盲」は「めしひて」と読む
     べきだが、リズムの上で「め」をはぶいた
     もの。

作者・・北原白秋=1885~1942。近代詩歌にすぐれた
     仕事を残す。詩集「邪宗門」歌集「桐の花」
     「黒檜」。

春といひ 夏と過ぐして 秋風の 吹きあげの浜に
冬は来にけり
            源実朝(みなもとのさねとも)
              (金槐和歌集・316)

(はるといい なつとすぐして あきかぜの ふきあげの
 はまに ふゆはきにけり)

意味・・春だといい、夏だといって過ごしているうちに、
    秋風が吹く吹き上げの浜に冬が来てしまった。

    一首のなかに春・夏・秋・冬を入れて詠んでい
    ます。
    参考歌です。
    昨日といひ今日と暮らして明日香川流れて早き
    月日なりけり  (意味は下記参照)

 注・・吹きあげの浜=和歌山県紀ノ川の河口一帯。

作者・・源実朝=1192~1219。28歳。12歳で三代将軍に
     なる。鶴岡八幡宮で暗殺される。「金槐和歌
     集」

参考歌です。

昨日といひ 今日と暮らして あすか川 流れてはやき
月日なりけり      
            春道別樹(はるみちつらき)
              (古今和歌集・341) 

(きのうといい けふとくらして あすかがわ ながれて
 はやき つきひなりけり)

意味・・昨日といっては暮らし、今日といっては暮らして、
    また明日になる。飛鳥川の流れのように早い月日
    の流れであったことだ。

    「あすか川」は流れが早く、流路の定まらない
    飛鳥川のこと。「明日」を掛けている。歳末に
    一年を振り返っての感慨を詠んでいます。



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