名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2011年01月

夕べ食す ほうれん草は 茎立てり 淋しさを遠く
つげてやらまし
           土屋文明(つちやぶんめい)
             (ふゆくさ) 

(ゆうべほす ほうれんそうは くくたてり さびしさを
 とおく つげてやらまし)

意味・・夕餉の副食に食べるほうれん草は紅色に茎立って
    いる。私は一人しみじみと夕食をしている。この
    やるせない寂しさを遠く恋い思う人に告げてやり
    たいものだ。

 注・・茎(くく)立てり=茎(くき)立つ。茎が伸びて立つ。

作者・・土屋文明=1890~1990。東大哲学科卒業。明治大
     学教授。「アララギ」を編集。「ふゆくさ」。


物として はかりがたしな 弱き水に 重き舟しも
浮かぶと思へば
           京極兼為(きょうごくのかねため)
             (風雅和歌集・1727)

(ものとして はかりがたしな よわきみずに おもき
 ふねしも うかぶとおもえば)

意味・・物というものは量りがたいものである。力の無い
    水に重い舟が浮かぶことを思うと。

    「表面的な形だけでは物事の本性は量りがたい」
    ということで、「荀子」の次の言葉によってい
    ます。
    「君者舟也、庶人者水也、水則載舟、水則覆舟」
    により(意味は下記参照)、舟と水との相関関係を
    通して、外見の強弱・軽量でなく、物それぞれの
    本性とその相互の微妙な均衡によって宇宙の調和
    が保たれているという真理を歌っています。
    舟と水ー君と臣ー伏見院と兼為、と連想し、軽い
    臣(兼為)が重い君(伏見院)を支えてきた自負、舟
    も水を信じて歌壇、政界に正しい道を求めてきた
    相互の均衡への感動を詠んでいます。

 注・・伏見院=1265~1317。弟2代天皇。鎌倉期の歌人。

作者・・京極兼為=1254~1332。伏見院の近臣として活躍
     するが、排斥を受け土佐に流される。鎌倉期の
     歌人。「玉葉和歌集の選者」。

荀子の言葉です。

君なる者は舟なり、庶人(しょじん)なる者は水なり、水は
則(すなわち)舟を載せ、水は則(すなわち)舟を覆(くつがえ)
す。

たとえば君主は舟であり、民衆は舟である。水は舟を浮かべ
もするし、転覆させもするのである。民衆が政治を不満とし
て騒ぐ時には、君主は安穏とその地位にいることなど出来ない。

今はとて 宿離れぬとも 慣れ来つる 真木の柱は
我を忘るな
            源氏物語・真木柱の巻

(いまはとて やどかれぬとも なれきつる まきの
 はしらは われをわするな)

意味・・今となってはもうこれまでと、私が家を出て
    行っても、平素なじんで来た真木の柱は私を
    忘れないでいて下さい。

    父と母が別れる事になり、母の実家に移る時
    に、柱の割れ目に、紙に書いて挟んだ歌です。

 注・・今はとて=今となっては、もはや。
    真木の柱=「真木」は杉や檜の良材をいう。
     柱は乾きすぎて、ひびや割れ目が入る。

わが里に 大雪降れり 大原の 古りにし里に 
降らまくは後
           天武天皇(てんむてんのう)
             (万葉集・103)

(わがさとに おおゆきふれり おおはらの ふりにし
 さとに ふらまくはのち)

意味・・こちらの里には今日大雪が降った。まことに綺麗
    だが、おまえの居る大原の古びた里に降るのはも
    っ後だろう。さすがに私の居る所はたいしたもの
    だろう。

    戯れで藤原夫人(ぶじん)に贈った歌です。

    同音の繰り返しが心地よい歌となっています。
    「大雪・大原」「降れり・古りにし・降らまく」。

 注・・大原=奈良県高市郡明日香村小原の地。
    古りにし里=藤原夫人の住んでいる所をふざけて
     わざっと悪く言ったもの。
    降らまくは=降るであろうことは。「ま」は推量
     の助動詞「む」の未然形。「く」は名詞化する
     接尾語。
    藤原夫人=鎌足の娘。「夫人」は天皇に仕える職
     の名で、妃に次ぐもの。

作者・・天武天皇=622~686。第40代天皇。壬申の乱を起
     こし弘文天皇を滅ぼして都を大和の飛鳥に移す。

此木戸や 錠のさされて 冬の月
               宝井其角(たからいきかく)
                 (猿蓑)

(このきどや じょうのさされて ふゆのつき)

意味・・夜も更けてほとんど人通りの絶えた刻限である。
    大木戸の門はすでに閉ざされており、空には寒々
    とした冬の月が冴えわたっている。

    孤独感やわびしさを感じさせられます。

 注・・木戸=城戸・城門で、城や柵に設けた門である
     が、ここでは江戸時代市街地の通路に警備の
     ために設けた門。夜十時以降はこれを閉ざし
     て一般の通行を禁じた。

作者・・宝井其角=1661~1707。榎本氏のちに宝井氏。
     医術・儒学を学ぶ。15歳頃芭蕉に入門。
  

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