名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2011年03月

昔見し 妹がかきねは 荒れにけり つばなまじりの
菫のみして
             吉田兼好(よしだけんこう)
             (徒然草・26)

(むかしみし いもがかきねは あれにけり つばな
 まじりの すみれのみして)

意味・・以前の愛人の門に来て見たが垣根の面目は
    一変し、荒涼として茅花の茂る間に可憐な
    菫の花が少しばかり見えているばかりであ
    った。あの人の心のうちは、いま果たして
    どんなであろうか。

    哀れをさそう風情を詠んでいます。

    徒然草26段です。
    風に吹かれるまでもなく変りうつろうのが
    人の心であるから、親睦した当時を思い出
    してみると、身に沁みて聞いた一言一句も
    忘れもせぬのに、自分の生活にかかわりも
    ない人のようになってしまう恋の一般性を
    考えると、死別にもまさる悲しみである。
    それゆえ、白い糸が染められるのを見て悲
    しみ、道の小路が分かれるのを嘆く人もあ
    っのではあろう。

 注・・つばな=茅花。ちがやの花、ちがや。

作者・・吉田兼好=1283頃の生まれ。70歳。和歌四
     天王。「徒然草」。


初花の ひらけはじむる 梢より そばへて風の
わたるなりけり
            西行(さいぎょう)
            (山家集・148)

(はつはなの ひらけはじむる こずえより そばえて
 かぜの わたるなりけり)

意味・・桜の初花が開きはじめる梢から、もうすぐ散る
    ことを思わせる風が戯れるごとく吹きわたって
    いるよ。

 注・・そばへ=戯へ。たわむれる、風が軽やかに吹く。

作者・・西行=1118~1190。「山家集」。

あしびきの 山田のそほづ おのれさへ 我を欲してふ
うれはしきこと
             読人知らず
             (古今和歌集・1027)

(あしびきの やまだのそほず おのれさえ われを
 ほしてふ うれはしきこと)

意味・・山田の案山子さん、お前までが私をお嫁さんに
    したいという。ほんとうに困ったことだ。

    山田の案山子は、みすぼらしい男を極端に馬鹿
    にした呼びかたであり、そのような男に求婚さ
    れた女が、身震いするような調子でたまらない
    といって詠んだ歌です。

 注・・あしびき=山の枕詞。
    山田のそほづ=山田の案山子。ここでは相手の
     男を軽蔑していったもの。
    おのれさえ=お前までが。「さえ」は案山子以
     外からも求婚されている事を表す。
    我を欲してふ=私を妻に欲しいという。
    うれはし=憂はし。嘆かわしい。


(3月22日)名歌鑑賞・1419

たのめつつ 逢はで年経る 偽りに 懲りぬ心を
人は知らなん
            藤原仲平(ふじわらのなかひら)
            (後撰和歌集・967)

(たのめつつ あわでとしふる いつわりに こりぬ
 こころを ひとはしらなん)

意味・・そのうちに逢いましょうと何度も期待をさせて
    逢いもしないで歳月を過ごすという偽りにも、
    懲りずにお慕いする私の心をあなたは知ってい
    ただきたいものです。

 注・・たのめつつ=頼りにさせる、期待させる。

作者・・藤原仲平=875~945。左大臣。

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(3月23日)名歌鑑賞・1420

老いぬれど 花みるほどの 心こそ むかしの春に
かはらざりけれ
             伴蒿蹊(ばんこうけい)
             (閑田詠草)

(おいぬれど はなみるほどの こころこそ むかしの
 はるに かわらざりけれ)

意味・・老いてしまったけれど、花を見る時の浮き立つ
    ような気持は、昔の若い頃の春と変りはしない
    なあ。

 注・・花みるほどの心=花を見る時の浮き立つような
    心の状態。

作者・・伴蒿蹊=1733~1806。商人の生まれ。36歳で隠居
     し文人となる。「閑田詠草」「近世畸人伝」。

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(3月24日)名歌鑑賞・1421

春くれば 散りにし花も さきにけり あはれ別れの
かからましかば
            具平親王(ともひらしんのう)
            (千載和歌集・545)

(はるくれば ちりにしはなも さきにけり あわれ
 わかれの かからましかば)

意味・・春が巡って来たので去年散った花も咲いたこと
    ですね。ああ、人との別れがこのようであった
    なら嘆くこともないでしょうに。

    桜狩に行った時に、昨年亡くなった人の話題と
    なり、詠んだ歌です。

 注・・あはれ=感動を表す語。ああ、なんとまあ。
    かからましかば=斯からましかば。もしこの
     ようであったならば。

作者・・具平親王=964~1009。。中務卿・正四位上。
     村上天皇弟7皇子

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(3月25日)名歌鑑賞・1422

稚ければ 道行き知らじ まひはせむ したへの使
負ひて通らせ
            山上憶良(やまのうえおくら)
            (万葉集・905)

(わかければ みちゆきしらじ まいはせん したえの
 つかい おいてとおらせ)

意味・・私のかわいいかわいい子は突然死にました。あの
    子はまだ幼い子供ですから、冥土へ行く道の行き
    方を知りますまい。冥土からお迎えに来られた
    お役人さんよ、私は貴方にどっさり贈り物をいた
    しますから、どうか脚の弱いあの子を負んぶして
    冥土へおつれ下さいませ。
    
    長歌の一部です。

    明星の輝く朝になると、寝床のあたりを離れず、
    立つにつけ座るにつけ、まつわりついてはしゃぎ
    まわり、夕星の出る夕方になると「さあ寝よう」
    と手にすがりつき、「父さんも母さんも離れない
    で真ん中に寝る」とかわいらしく言うので、早く
    一人前になってほしい・・。

    長歌では憶良がひたすらわが子の成長を楽しんで
    いる様子が描かれ、その後に急死した悲しさが詠
    まれています。

    人が死ぬと冥土から迎えの使いが来ると信じられ
    ていた時代の歌です。

 注・・まひ=幣。謝礼として神に捧げたり、人に贈る物。
    はせむ=馳せむ。急いで・・する。
    したへ=下方。死者の行く世界、黄泉の国。
    通らせ=「せ」は尊敬の語。

作者・・山上憶良=660~733。遣唐使として3年渡唐。
     筑前守。大伴旅人と親交。



(3月26日)名歌鑑賞・1423

うぐいすの 鳴くになみだの おつるかな またもや春に
あはむとすらん
         藤原教良母(ふじわらののりよしのはは)
         (詞花和歌集・358)

(うぐいすの なくになみだの おつるかな またもや
 はるに あわんとすらん)

詞書・・夫が亡くなった後の春、鶯の鳴くのを聞いて詠む。

意味・・鶯の鳴くのを聞いても涙が落ちることだ。生きて
    再び春に逢おうとしているのだろうか。

    夫を失って、生きてゆけそうもないほどの悲しみ
の中でも、時は過ぎ春がめぐって来る事の感慨を
    詠んでいます。

 注・・あはむとすらん=春まで生きていられようとは思
    っていなかったのに、との意を含む。

作者・・藤原教良母=子の教良は日向守・従五位上。夫は
     1141年11月没。

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(3月27日)名歌鑑賞・1424

散りぬれば のちはあくたに なる花を 思ひしらずも
まどふてふかな
             僧正遍照(そうじょうへんじょう)
             (古今和歌集・435)

(ちりぬれば のちはあくたに なるはなを おもいしらずも
 まどうちょうかな)

意味・・いくら美しいかろうが散ってしまえば汚いごみに
    なる花なのに、蝶はそれを少しも知らないで、美
    しさに惑わされてひらひら飛び戯れている。

    美しいものは全て一時的にすぎないという仏教的
    思想を詠んでいます。

 注・・あくた=芥。ごみ、かす。
    まどふ=惑ふ。飛びさまようの意と、心に迷いが
     あるとの意を掛ける。     
    てふ=蝶。

作者・・僧正遍照=816~890。僧正は僧の最高の位。六歌仙
     の一人。

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(3月28日)名歌鑑賞・1425

わりなしや 人こそ人と 言わざらめ みづから身をや
思ひ捨つべき
            紫式部(むらさきしきぶ)

(わりなしや ひとこそひとと いわざらめ みずから
 みをや おもいすつべき)

意味・・辛(つら)いことだ、皆で私を仲間はずれにして
    うてあってくれないのは。

    宮仕えをしていて、同僚の女房から「生意気だ、
    澄ましている」と陰口をされて詠んだ歌です。

 注・・わりなし=つらい。
    人こそ人と言はざらめ=人を人と認めない、仲
     間と認めない。「ざら」は打ち消しの「ず」
     の未然形。「め」は卑下する語。
    みづから=その人自身、当人。
    身=自分、我が身。
    思ひ捨つ=見捨てる、顧みない。
    女房(にょうぼう)=宮中で部屋を持っている高
     位の女官。
    うてあわない=相手にしない。九州博多方面の
     方言。

作者・・紫式部=生没年未詳。973頃の生まれ。「源氏物
     語」。


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