名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2011年03月

宮城野の 露吹き結ぶ 風の音に 小萩がもとを 
思ひこそやれ
           源氏物語・桐壺
           (風葉和歌集・233)

(みやぎのの つゆふきむすぶ かぜのねに こはぎが
 もとを おもいこそやれ)

意味・・宮城野を吹いて露を結ばせる風の音を聞くと、
    小萩の根元を思いやられることだ。

    宮中を吹いて涙の露を私に結ばせる風の音に、
    我が子を亡くした桐壺更衣の実家が思いやら
    れることだ。    

    桐壺の更衣は帝の寵愛を独り占めにしていた。
    その為に他の更衣からの嫉妬を受け、病気に
    なり亡くなった。帝も悲しみ、桐壺の更衣の
    母のもとに贈った歌です。

 注・・宮城野=宮城県仙台市の東方の野。宮中も
     意味している。
    子萩=「小」に「子」を掛ける。幼子。
    更衣=宮廷の高位の女官。

陸奥の 真野の萱原 遠けども 面影にして 
見ゆといふものを
            笠女郎(かさのいらつめ)
            (万葉集・396)

(みちのくの まののかやはら とおけども おもかげ
 にして みゆというものを)

意味・・奥州の真野の萱原はほんとうに遠い所だと話に
    聞いていますが、そんなに遠い萱原でも目の前
    にその姿が浮かぶということです。
    まして近くにおいでになるあなたを恋しく思わ
    ないわけにはゆきません。

    笠女郎が大伴家持に贈った歌で、近くにいる
    家持になぜ逢えないのかと諷した歌です。

 注・・陸奥=東北地方の総称。
    真野の萱原=歌枕。福島県相馬郡鹿島町真野川
     の流域。

作者・・笠女郎=生没年未詳。大伴家持と交渉のあった
     女性。  
    



先立たぬ 悔いの八千度 悲しきは 流るる水の
かへり来ぬなり
            閑院(かんいん)
            (古今和歌集・837)

(さきだたぬ くいのやちたび かなしきは ながるる
 みずの かえりこぬなり)

意味・・先に立たない悔いを八千度繰り返しても悲しい
    のは、流れる水がもとに戻ってこないことです。

    親しい人が亡くなって弔問の時に詠んだ歌です。
    流れる水が元に帰らないように、人間があの世
    におもむくのは世の定めと詠んでいます。       

 注・・八千度=何千回も、「八」は数や量が多いこと。
    流れる水の帰り来ぬ=流水は再び帰らない、その
     ように死者も帰らない。

作者・・閑院=920年頃の女性。

霞晴れ 緑の空も のどけくて あるかなきかに 
遊ぶ糸遊
           作者未詳(和漢朗詠集・415)

(かすみはれ みどりのそらも のどけくて あるか
 なきかに あそぶいとゆう)

意味・・春のうららかな日、霞があがり、緑の色に晴れた
    空は、淡い陽炎(かげろう)がゆらゆらしてのどか
    なものだ。    

 注・・糸遊(いとゆう)=陽炎(かげろう)。春のよく晴れた
     日、地上から水蒸気が立ち、物の形がゆらゆらと
     揺らいで見える現象。


ももしきの 大宮人は いとまあれや 桜かざして
今日も暮らしつ
             山部赤人(やまべのあかひと)
             (新古今和歌集・104)

(ももしきの おおみやびとは いとまあれや さくら
 かざして きょうもくらしつ)

意味・・世の中は平和で、大宮人は暇があることだ。
    昨日も今日も一日中、桜の花を折りかざして
    遊び暮らしている。

 注・・ももしき=「大宮」の枕詞。
    大宮人=宮中に仕える人。
    あれや=あるのかなあ。「や」は詠嘆を表す。
    桜かざして=桜の花を髪や冠(かんむり)に挿し
     て飾った。

作者・・山部赤人=生没年未使用。奈良時代の歌人。


窓ちかく 吾友とみる くれ竹に 色そへてなく
鶯のこえ
           後西天皇(ごさいてんのう)
           (万治御点・まんじおてん)

(まどちかく わがともとみる くれたけに いろそえて
 なく うぐいすのこえ)

意味・・窓近くに生えて、我が友として見ている呉竹の
    その色に、音色という色を添えて鶯が鳴いている。

 注・・くれ竹=呉竹。はちくの異名。直径3~10cm、
     高さ10~15m。

作者・・後西天皇=1637~1685。

風ふけば 波のあやをる 池水に 糸ひきそふる 
岸の青柳
          源雅兼(みなもとのまさかね)
          (金葉和歌集・25)

(かぜふけば なみのあやおる いけみずに いとひき
 そうる きしのあおやぎ)

意味・・風が吹くと、綾織物のように波立っている池の
    水に、糸を引き加えるように吹き寄せられてい
    る岸辺の青柳だなあ。

 注・・あや=波の紋様、綾織物に見立てる。

作者・・源雅兼=1079~1143。権中納言。

勅なれば 思ひな捨てそ 敷島の 道にものうき
心ありとも
          二条良基(にじょうのよしもと)
          (新続古今和歌集・1899)

(ちょくなれば おもいなすてそ しきしまの みちに
 ものうき こころありとも)

意味・・勅命であるので和歌の道を思い捨ててはいけない。
    たとえ和歌の道につらいことがあったとしても。

 注・・勅=天皇が下す命令。
    な・・そ=禁止の意を表す。
    敷島の道=和歌の道、歌道。

作者・・二条良基=1320~1388。関白右大臣。南北朝期
     の歌人。

沖つ島 荒磯の玉藻 潮干満ち い隠り行かば 
思ほえむかも
          山部赤人(やまべのあかひと)
          (万葉集・919)

(おきつしま ありそのたまも しおひみち いかくり
 ゆかば おもほえんかも)

意味・・沖の島の荒磯に生えている玉藻刈りもしたが、
    今に潮が満ちてきて荒磯が隠れてしまうなら、
    心残りがして、玉藻を恋しく思うだろう。

    清らかな渚、風が吹くと白波が立ち騒ぐ美しい
    沖つ島。この沖つ島の玉藻に焦点を合せ、心残
    りを詠んでいます。

 注・・沖つ島=沖の島。
    荒磯(ありそ)=「あらいそ」の転で、岩のある
     海岸。
    玉藻=美しい藻。「玉」は美称の接頭語。
    潮干=潮の引いた所。
    い隠り行かば=(玉藻が水に)隠れ行ったならば。
     「い」は接頭語。
    思ほえんかも=(玉藻が)思われるであろうかなあ。
     「思ほえ」は「思はゆ」から転じた「思ほゆ」
     の未然形。「か」は疑問、「も」は詠嘆を表す
     係助詞。

作者・・山部赤人=生没年未詳。奈良時代の宮廷歌人。


大魚つる 相模の海の 夕なぎに みだれていづる 
海士小舟かも
            賀茂真淵(かものまぶち)
            (賀茂翁家集)

(おおなつる さがみのうみの ゆうなぎに みだれて
 いずる あまおぶねかも)

意味・・夕凪時に大魚を釣る相模の海へ、漁夫の小舟が
    乱れ漕ぎ出ている。

    実景の面白さを見たまま詠んだものです。

 注・・大魚(おおな)=魚、肴(さかな)。魚・野菜など
     副食物を「な」といった。「大」は意味が無
     く、下句の「小舟」に対させたもの。
    夕なぎ=夕凪。夕方の無風状態。漁に適している。
    海士(あま)=海人。漁夫。

作者・・賀茂真淵=1697~1769。本居宣長をはじめ多くの
     門人を育成。「賀茂翁家集」。
    

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