名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2011年07月

我ならぬ 草葉も物は 思ひけり 袖より外に
置ける白露
           藤原忠国(ふじわらのただくに)
           (後撰和歌集・1281)
(われならぬ くさばもものは おもいけり そでより
 そとに おけるしらつゆ)

意味・・私だけでなく、なんと、草の葉も物を悩んでいる
    のだねえ。私の袖以外の草の葉にも、涙のような
    白露を置いているということは。

作者・・藤原忠国=詳細不明。

幸はひの いかなる人か 黒髪の 白くなるまで
妹が声を聞く
            作者不明
            (万葉集・1411)
(さきはいの いかなるひとか くろかみの しろく
 なるまで いもがこえをきく)

意味・・あの二人はなんという仕合せな人達なんだろう。
    あのお爺さんは黒髪がすっかり白髪に変わるあの
    年まで、つれ添うたお婆さんの声を聞くなんて。
    早く妻を失った自分はうらやましいなあ。

    挽歌です。

 注・・挽歌=人の死を悼(いた)み悲しむ歌。


み林は 何処はあれど 越路なる 三島の里の
出田の宮
           良寛(りょうかん)
           (良寛歌集・1332)
(みはやしは いずこはあれど こしじなる みしまの
 さとの いづるたのみや)

意味・・お宮の林は、どこもみな良いが、中でも越路に
    ある三島の里の、出田の宮の林はことに素晴ら
    しいものだ。

 注・・越路=越の国、ここでは新潟県。
    三島の里=ここでは、新潟県和島村島崎。
    出田(いづるた)の宮=現在は宇奈具志神社に
     合社。

作者・・良寛=1758~1831。

涼しさは あたらし畳 青簾 妻子の留守に
ひとり見る月
           唐衣橘洲(からころもきっしゅう)
           (鶯蛙)
(すずしさは あたらしたたみ あおすだれ さいしの
 るすに ひとりみるつき)

意味・・新しい畳に青簾のさっぱりした部屋で、月を
    見上げたらさぞ涼しかろう。しかも妻子が留
    守なら、涼しさもひとしおだ。

    妻子だけでなく、広く世俗のわずらわしさか
    らも逃れたら、の願望。

作者・・唐衣橘洲=1743~1802。田安家の下級幕臣。
     天明狂歌の創始者。

鏡山 ひかりは花の 見せければ ちりつみてこそ
さびしかりけれ
          藤原親隆(ふじわらのちかたか)
          (千載和歌集・105)
(かがみやま ひかりははなの みせければ ちり
 つみてこそ さびしかりけれ)

意味・・鏡の山の光は満開の花を光輝いて見せたのだが、
    その花が散り積もってしまってからは、光も曇
    りさびしいことだ。
    鏡山というその名にふさわしく、ひときわ照り
    輝いていた山桜、今はその花も散り果てて光を
    失ったようだ。

    緑に装いを変えた鏡山に対する一抹の哀愁の思い。

 注・・鏡山=滋賀県蒲生郡にある山。近江国の歌枕。
     ここでは徳のある人の意も含む。
    ちりつみて=散り積みて。散り積もって。

作者・・藤原親隆=1099~1165。正三位参議。
    

山かげや 岩もる清水の おとさえて 夏のほかなる
ひぐらしの声
            慈円(じえん)
            (千載和歌集・210)
(やまかげや いわもるしみずの おとさえて なつの
 ほかなる ひぐらしのこえ)

意味・・この山陰にいると、岩を漏れ落ちる清水の音も
    冷たく澄んで聞こえ、また夏とも思えぬ蜩の鳴
    き声までが聞えてくる。

作者・・慈円=1155~1225。天台座主、大僧正。

よきも着ず うまきも食はず 然れども 児等と楽しみ
心足らへり
              伊藤左千夫(いとうさちお)
              (左千夫歌集)
(よきもきず うまきもくわず しかれども こらと
 たのしみ こころたらえり)

意味・・よい着物も着ず、うまい物も食わない。そんな
    質素な生活をしているけれども、子供らと日々
    を楽しく暮らして、自分の心は満足している。

作者・・伊藤左千夫=1864~1913。小説「野菊の墓」。

吾が宿の いささ群竹 吹く風の 音のかそけき
この夕べかも
           大伴家持(おとものやかもち)
           (万葉集・4291)
(わがやどの いささむらたけ ふくかぜの おとの
 かそけき このゆうべかも)

意味・・そよそよと微(かす)かに音が聞えてくる。何だろう?
    そうだ、あれはこの邸に植えてある小さい群竹に吹く
    風の音なのだ!静かな寂しい夕暮れだなあ。

 注・・いささ群竹=ほんの小さな竹の茂み。
    かそけき=幽けき。光、色、音などが知覚出来るか
     出来ないさま。かすかに。

作者・・大伴家持=718~785。大伴旅人の子。



いたづらに 我が身もかくや はつせ山 けふの日も又
入あひのこえ
              後西天皇(ごさいてんのう)
              (万治御点)
(いたづらに わがみもかくや はつせやま けふの
 ひもまた いりあいのこえ)

意味・・何の甲斐も無く我が身もこうして果てるのか。
    初瀬山では今日という日も又夕暮れを向かえて
    入相の鐘の音が響いている。

 注・・いたづらに=何のかいもなく、無為に。
    かくやはつせ山=「かくや果つ」と「初瀬山」
     を掛ける。

作者・・後西天皇=1661~1665の天皇。 


うちなびく 草葉すずしく 夏の日の かげろふままに
風たちぬなり
             兼好法師(けんこうほうし)
             (兼好法師家集・96)
(うちなびく くさばすずしく なつのひの かげろう
 ままに かぜたちぬなり)

意味・・そよそよと草葉が風になびいて涼しい。夏の
    日がかげるにつれて風が出たようだ。

 注・・かげろふ=光がかげる、陰になる。
    なり=推定の助動詞。・・・のようだ。

作者・・兼好法師=1283年頃の生まれ、70歳くらい。
     「徒然草」。

このページのトップヘ