名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2011年09月

秋をへて 昔は遠き 大空に 我が身ひとつの
もとの月影
          藤原定家(ふじわらのていか)
          (定家卿百番自歌合・50)
(あきをへて むかしはとおき おおぞらに わがみ
 ひとつの もとのつきかげ)

意味・・幾多の秋を経て、昔は遠い彼方にある。大空には
    昔を思い出させる変わらぬ月の光、我が身ばかり
    はもとのままである。

    本歌は在原業平の次の歌です。

   「月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつは
    もとの身にして」

作者・・藤原定家=1162~1241。平安末期から鎌倉初期を
     生きた歌人。

本歌です。

月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは 
もとの身にして      
           在原業平(ありはらなりひら)
           (古今和歌集・747)
(つきやあらぬ はるやむかしの はるならぬ わがみ
 ひとつは もとのみにして)

意味・・この月は以前と同じ月ではないのか。春は去年の春と
    同じではないのか。私一人だけが昔のままであって、
    月や春やすべてのことが以前と違うように感じられる
    ことだ。

    しばらく振りに恋人の家に行ってみたところ、すっかり
    変わった周囲の光景(すでに結婚している様子)に接して
    落胆して詠んだ歌です。


鏡だに 捨つればくもる ことわりや おもひてみがけ
おのが心を
            田安宗武(たやすむねたけ)
            (悠然院様御詠草)
            (ゆうぜんいんさまごえいそう)
(かがみだに すつればくもる ことわりや おもいて
 みがけ おのがこころを)

意味・・鏡さえも打ち捨てて手入れをしないと曇るのが
    道理である。念を入れて磨きなさいよ、自分の
    心を。

 注・・ことわり=理。条理、道理。

作者・・田安宗武=1715~1771。八代将軍徳川吉宗の次男。
     従三位権中納言。

こころみに ほかの月をも みてしがな わが宿からの
あはれなるかと
             花山院(かざんいん)
             (詞歌和歌集・300)
(こころみに ほかのつきをも みてしがな わがやど
 からの あわれなるかと)

意味・・ためしに他所の月を見てみたいものだ。見る
    場所がこの家ゆえの素晴らしさなのかどうかと。

 注・・あはれ=しみじみと心を打つさま、すてきだ。

作者・・花山院=968~1008。65代天皇。退位後出家。


見し人は ひとり我が身に そはねども 遅れぬ物は
涙なりけり
         僧正行尊(そうじょうぎようそん)
         (金葉和歌集・576)
(みしひとは ひとりわがみに そわねども おくれぬ
 ものは なみだなりけり)

意味・・親しくして来た仲間は、一人として我が身と共には
    いないが、私に遅れずに着いて来るものは、我が涙
    だけである。

    共に修行する人々が、厳しさに耐えられずに離れて
    行く、その心細さを詠んだ歌です。

 注・・見し人=同行の人々。
    遅れぬ物は涙=淋しさゆえの涙。

作者・・行尊=1055~1135。平等院大僧正。


我も人も うそも誠も 隔てなく 照らし貫きける 
月のさやけさ
             貞心尼(ていしんあま)
             (はちすの露)
(われもひとも うそもまことも へだてなく てらし
 ぬきける つきのさやけさ)

意味・・自分も人も偽りも誠も、区別なく照らし貫いている
    月の光は、なんとさわやかなことでしょう。

作者・・貞心尼=1798~1872。長岡藩士奥村五兵衛の娘。結婚
     したが夫と死別。無常を感じて尼となる。29歳で69
     歳の良寛の弟子となる。歌集「はちすの露」。



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