降る雪の みのしろ衣 うちきつつ 春きにけりと
おどろかれぬる
藤原敏行
(ふるゆきの みのしろころも うちきつつ はるきに
けりと おどろかれぬる)
詞書・・正月一日、一条の后の宮にて、しろきおほうちき
をたまわりて。
意味・・雪を防ぐ蓑代衣ではないが、雪のような白い衣を
賜わり、それを何度も肩にかけつつ、暖かい御厚
情に、我が身にも春が来たことだと、驚いている
のでございますよ。
新年を賀する気持と自分にも春が来たと喜ぶ気持
を詠んでいます。
注・・みのしろ衣=蓑代衣。蓑の代わりに着る防雨衣。
「降る雪のみのしろ衣」は「降る雪のような白い
衣」の意と「経(ふ)る身」を掛ける。
うちきつつ=「着る」に軽い接頭語をつけた「う
ち着つつ」と「袿(うちき)」を掛ける。「袿」
は狩衣の時に着る内着。
一条の后=在原業平・素性法師・文屋康秀らに歌
を詠ませている歌壇のパトロン的な存在。
おほうちき=大袿。公儀などの参加者が賜る袿。
女性の場合は正装の上に着る上着、男性場合は
狩衣の下に着る内着。
作者・・藤原敏行=ふじわらのとしゆき。~901。従四位上・
蔵人頭。「秋きぬと目にはさやかに見えねども・・」
の歌を詠んだ人。
出典・・後撰和歌集・1。