名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2012年02月

岩代の 結べる松に ふる雪は 春もとけずや
あらんとすらむ
               中納言女王
           
(いわしろの むすべるまつに ふるゆきは はるも
 とけずや あらんとすらん)

意味・・岩代の結び松に降る雪は、その名の通り結ばれた
    まま、春になっても解けないのだろうか。

    有間皇子が次の歌を詠んだか、皇子は処刑された
    ので、再び見る事が出来ずに、結ばれたままとな
    った。

    盤代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば 
    また還り見む
             
 注・・岩代=磐代。和歌山県日高郡南部町岩代。
    結べる松=枝を引き結ばれた松。旅路の無事を願
     うために行う。

作者・・中納言女王=ちゅうなごんのにょうおう。源式部。
    生没年未詳。後三条院乳母。

出典・・金葉和歌集・286。

参考歌です。

盤代の 浜松が枝を 引き結び 真幸くあらば 
また還り見む
               有間皇子
             
(いわしろの はままつがえを ひきむすび まさきく
 あらば またかえりみむ) 

意味・・盤代の浜松の枝を結んで「幸い」を祈って行く
    が、もし無事であった時には、再び帰ってこれ
    を見よう。

    有間皇子は反逆の罪で捕えられ、紀伊の地に
    連行され尋問のうえ処刑されたが、この道中で
    詠んだ歌です。
    松の枝を引き結ぶのは、旅路などの無事を祈る
    まじないです。

 注・・盤代=和歌山県日高郡岩代の海岸の地名。
    真幸(まさき)く=無事で(命が)あったなら。

出典・・万葉集・141。

酒杯に 梅の花浮かべ 思ふどち 飲みての後は
散りぬともよし
            大伴坂上郎女(万葉集・1656)
            (おおとものさかのうえいらつめ)
(さかずきに うめのはなうかべ おもうどち のみての
 のちは ちりぬともよし)

意味・・盃に梅の花を浮かべて、親しい仲間同士で飲み
    合った後ならば、梅の花は散ってもかまわない。

    飲んで思い切り楽しみましょう、という宴席で
    の挨拶歌です。

作者・・大伴坂上郎女=生没年未詳。大伴旅人の異母妹。

世の中を 憂しと恥しと 思へども 飛び立ちかねつ 
鳥にしあらねば   
                 山上憶良
            
(よのなかを うしとやさしと おもえども とびたちかねつ
 とりにしあらねば)

意味・・世の中をいやな所、身が細るように耐えがたいような
    所と思っても、捨ててどこかに飛び去ることも出来ま
    せん。私どもは所詮(しょせん)鳥ではないのだから。

    現実社会の苦しみにあえぎながら、それから逃れよう
    もなく、結局それに耐つつ生きざるを得ないことを悟
    った時の窮極の心がとらえられています。

 注・・憂し=つらい、憂鬱だ。
    恥(やさ)し=身が細るように耐えがたい、肩身が狭い。

作者・・山上憶良=やまのうえのおくら。660~733。遣唐使
    として渡唐。筑前守。

出典・・万葉集・893。

鏡にぞ 心は似たる しかはあれど 鏡は影を
とどめやはする
            小沢蘆庵(おざわろあん)
            (出典未詳)
(かがみにぞ こころはにたる しかはあれど かがみは
 かげを とどめやはする)

意味・・人の心は鏡に似るとよく譬えられる。人は人の心
    をよく映すからだが、鏡は影を留めるだろうか。
    人がその前から去ればその影を留めないのである。

    しかし人は違う。悲しみは悲しみを留め、特に恨
    みや憎しみは長く長く心に持ち続けるのである。
    鏡のようにありたいものだ。

作者・・小沢蘆庵=1723~1801。漢学に優れ、管茶山・頼
     山陽らと交流

時は今は 春になりぬと み雪降る 遠き山辺に
霞たなびく
                 中臣武良自
            
(ときはいまは はるになりぬと みゆきふる とおき
 やまべに かすみたなびく)

意味・・時は今まさに春になったというので、雪の
    降り積む遠い山のあたりに霞がたなびいて
    いる。

 注・・時は今は=待ち焦がれた春が来た喜びを
     強調している。

作者・・中臣武良自=なかとみのむらじ。伝未詳。

出典・・万葉集・1439。

百千鳥 さえづる空は 変らねど 我が身の春は
改まりつつ
                後鳥羽院(ごとばいん)
                (遠島御百首・4)
(ももちどり さえずるそらは かわらねど わがみの
 はるは あらたまりつつ)

意味・・いろいろな小鳥がさえずる空はなんの変わりも
    ないが、我が身に訪れる春は、今までと大きく
    相違してしまった・・・。

    隠岐に流されて詠んだ歌です。

 注・・改まりつつ=新しく変わっている。

作者・・後鳥羽院=1180~1239。第82代天皇。承久の乱
     (1221)によって隠岐に流される。「新古今和
     歌集」の撰集を命じる。

春はただ わが宿にのみ 梅咲かば かれにし人も
見にぞ来なまし
                 和泉式部
              
(はるはただ わがやどにのみ うめさかば かれにし
 ひとも みにぞきなまし)

意味・・春という季節は、ただもう私の住まいだけに
    梅が咲いたなら、音信が絶えてしまったあの
    人も梅見にと訪ねてくれるであろうに・・・。

 注・・かれにし人=疎くなった人。「かれ」は「離れ」。
    まし=反実仮想を表す。もし・・だったら・・ 
     だろう。

作者・・和泉式部=いずみのしきぶ。978頃の生まれ。

出典・・後拾遺和歌集・57。

みづがきの ひさしき世より ゆふだすき かけし心は
神ぞ知るらん
             源実朝(みなもとのさねとも)
             (金槐和歌集・649)
(みずがきの ひさしきよより ゆうだすき かけし
 こころは かみぞしるらん)

意味・・久しい昔から努力して来た私の心は、神様が
    必ず御覧になっていることだろう。

 注・・みづがきの=瑞垣の。「ひさ(久)しい」の枕詞。
     「瑞垣(みづがき)」は神社の垣の美称。
    ゆふだすき=木綿で作ったたすきのことだが、
     それを掛けるところから、「かく」の枕詞。

作者・・源実朝=1192~1219。28歳。鶴岡八幡宮で甥
     の公卿に暗殺される。

世の中は 七たび変へん ぬば玉の 墨絵に描ける
小野の白鷺
                 良寛
               
(よのなかは ななたびかえん ぬばたまの すみえに
 かける おののしらさぎ)

意味・・世の中に対する態度・心の持ち方を七度変えて
    みよう。墨で雪野の白鷺を描く事が出来るよう
    に、不可能に見えたものも、可能になるものだ。

 注・・ぬば玉の=「墨」の枕詞。
    小野=野原。ここでは白い雪のある野原の意。
    墨絵に描く白鷺=技術の上達によって不可能も
     可能になる事の意。

作者・・良寛=1758~1831。

出典・・良寛全歌集・497。

雪の朝 二の字二の字の 下駄のあと
                    田捨女(でんすてじょ)
                    (続近世奇人伝)
(ゆきのあさ にのじにのじの げたのあと)

意味・・一面に真っ白な雪の朝、きれいな雪の上に二の字
    二の字の下駄の足跡がついている。

    この句は6歳の時に作って人を驚かせたと言い伝え
    られています。

作者・・田捨女=1634~1698。

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