名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2012年05月

春の日の うららにさして 行く舟は 棹の滴に
花ぞ散りける
              源氏物語・胡蝶の巻
(はるのひの うららにさして ゆくふねは さおの
 しずくに はなぞちりける)

意味・・春の日がうららかに射して、その中を棹をさして
    行く舟は、その滴で花が散るようですね。

    唱歌「花」です。
          武島羽衣作詞・滝廉太郎作曲
    春のうららの隅田川
    のぼりくだりの船人が
    櫂のしずくも花と散る
    眺めを何にたとうべき

    見ずやあけぼの露浴びて
    われにもの言う桜木を
    見ずや夕ぐれ手をのべて
    われさしまねく青柳を


かはづ鳴く 井出の山吹 散りにけり 花のさかりに
あはまし物を
               読人しらず
               (古今和歌集・125)
(かわずなく いでのやまぶき ちりにけり はなの
 さかりに あわましものを)

意味・・河鹿が澄んだ声で鳴いている井出の山吹は、
    すでに散ってしまった。そうと分っていた
    ら、もっと早く来て花盛りを見たであろう
    に、花の盛りに会えないで残念な事である。

    今来て見ると山吹が散ってしまっている。
    そんなに早く散ると知っていたなら、もっ
    と早く来ればよかったのに。

 注・・かはず=河鹿、蛙。澄み切った声で鳴く。
    井出=京都府綴喜(つづき)郡井出町。蛙と
     山吹の名所として名高い。

  

都だに 寂しかりしを 雲はれぬ 吉野の奥の
五月雨のころ
           後醍醐天皇(ごだいごてんのう)
           (新葉和歌集・217)
(みやこだに さびしかりしを くもはれぬ よしのの
 おくの さみだれのころ)

意味・・五月雨の季節は都にいてさえも、陰鬱で寂しい
    思いがするのに、まして山里深く、雲が晴れる
    間もない吉野の奥にいる我が身には、いっそう
    侘(わび)しさが募るばかりだ。

    五月雨の陰鬱さを詠んでいるが、南北朝の対立、
    武家と朝廷との対立、そしてその後に都を追わ
    れた天皇の侘しい心を詠んでいます。

作者・・後醍醐天皇=1288~1339。96代の天皇(南朝)。
     北条氏(鎌倉幕府)を打倒し建武の新政を成立
     するが足利尊氏(室町幕府)により吉野に追わ
     れる。


思ひきや 手なれし槍を 鍬の柄に かへて荒田を
打ちわびんとは
              良尚(よしひさ)
              (明治開花和歌集)
(おもいきや てなれしやりを くわのえに かえて
 あらたを うちわびんとは)

意味・・思ったか、いや思いもしなかった。手に扱い
    慣れた槍を鍬の柄に持ち替えて荒れた田を耕
    し疲れようとは。

    詞書は帰農。明治の新政府は旧武士に家禄を
    奉還させ、帰農・帰商を勧めた。

作者・・良尚=伝未詳。


春の鳥 な鳴きそ鳴きそ あかあかと 外の面の草に
日の入る夕
            北原白秋(きたはらはくしゅう)
            (桐の花)
(はるのとり ななきそなきそ あかあかと とのもの
 くさに ひのいるゆうべ)

意味・・春のたそがれ時、窓外の若草には沈もうとする
    夕日があかあかと光を投げ、真っ赤な色で染め
    ている。静かで悩ましくしかも何となく心悲し
    い夕暮れである。その中にあって春の小鳥は、
    けたましく鳴いている。鳥よ鳴いてくれるな、
    その声をやめてくれ。これ以上わが心をもの
    悲しいものにしないでほしい。

 注・・な鳴きそ鳴きそ=禁止の助詞「な・・そ」を二
     度繰り返したもので、語感の上から後の「な」
     を省略したもの。

作者・・北原白秋=1885~1942。詩人。詩集「邪宗門」
     歌集「桐の花」。晩年失明状態になる。


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