名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2012年07月

嘆かじな 思へば人に つらかりし この世ながらの
報いなりけり
        皇嘉門院尾張 (新古今和歌集・1400)

(なげかじな おもえばひとに つらかりし このよ
 ながらの むくいなりけり)

意味・・嘆くまい。考えて見ると、今、人が私に薄情で
    あるのは、かって私が人に薄情だった事の現在
    への報いなのだから。

    恋人に嫌われた悲しみを詠んでいます。

作者・・皇嘉門院尾張=こうかもんいんのおわり。生没
     年未詳。皇嘉門院に仕えた女房(女官のこと)。


天の川 水陰草の 秋風に 靡かふ見れば
時は来にけり
           よみ人知らず (万葉集・2013)

(あまのがわ みずかげくさの あきかぜに なびかう
 みれば ときはきにけり)

意味・・天の川を見ると、川辺の草がしきりに秋風に
    靡(なび)いている。ああ、逢える時がいよい
    よやって来たのだ。
 
    織女に逢える秋の到来を喜んだ牽牛の歌です。
    織女星と牽牛星が逢える7月7日(陰暦)は現在
    の8月中旬にあたり、陰暦では秋です。

注・・水陰草=水辺に生えている草。

心から 花のしづくに そぼちつつ 憂くひずとのみ 
鳥のなくらむ
           藤原敏行 (古今和歌集・422)

(こころから はなのしずくに そぼちつつ うくひず
 とのみ とりのなくらん)

詞書・・「うぐひす」を隠し詠んだ歌。

意味・・自分から進んで花の滴(しずく)にひどく濡れて
    おきながら、つらくも羽が乾かないなどとばか
    り、あの鳥は鳴いているようだ。

 注・・心から=自分の考えで、自ら進んで。
    そぼちつつ=濡れながら。
    憂くひず=憂く干ず。つらくも乾かない。「う
     ぐひす」を隠す。

作者・・藤原敏行=ふじわらのとしゆき。~907没。蔵
     人頭(くろうどのとう)・従四位上。

いかにして しばし忘れむ 命だに あらば逢ふ世の
ありもこそすれ

         よみ人知らず (拾遺和歌集・646)

(いかにして しばしわすれん いのちだに あらば
 あうよの ありもこそすれ)

意味・・なんとかして、しばらくあの人の事を忘れて
    いたい。命さえあるなら、逢う時もあるかも
    知れないから。

 注・・いかにして=どうにかして。

竹に降る 雨むらぎもの 心冴えて ながく勇気を
思いいしなり
             佐々木幸綱 (心の花)

(たけにふる あめむらぎもの こころさえて ながく
 ゆうきを おもいいしなり)

意味・・竹に静かに降りかかっている雨音を聞いていると、
    気持ちがさえて来る。その気持ちというのは、や
    らねばならないと思いつつ、行為に移せなかった
    自分に、エイッと立ち上がる勇気が出て来る時の
    その思いである。

    朝、起き上がるのに、あと少しあと少しと寝てい
    て、やっとエイッと起き上がった時のような気持
    を詠んでいます。

 注・・むらぎも=心にかかる枕詞。
    冴える=明朗になる。すっきりする。
    ながく勇気を思い=猪突猛進の勇気ではなく、心が
     屈している時に立ち上がらねばと思う時の勇気。

作者・・佐々木幸綱=ささきゆきつな。1938~。早稲田大
     学教授。日本芸術院会員。佐々木信綱の孫。


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