名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2012年10月

住吉の 松の木間より 眺むれば 月落ちかかる
淡路島山
              源頼政 (頼政集)

(すみよしの まつのこまより ながむれば つきおち
 かかる あわじしまやま)

意味・・住吉の浜辺にいて、松の木の間を通して海
    を眺めると、月が淡路島の島影に落ちかか
    っている。
 
    静けさの中に打ち寄せる波の音。砕けて見
    える白い波。その住吉の浜辺に生い茂る松
    林の木の間から、遠く海を眺めると、淡路
    島を月が影絵のように映し出している。
    しんみりとした夜の風情が感じられる。

 注・・住吉の松=大阪住吉の浜辺の松。松の名所。
     住吉は摂津国の歌枕。

作者・・源頼政=みなもとのよりまさ。1104~1180。
     従三位蔵人。家集「頼政集」。   


風のうへに ありかさだめぬ 塵の身は ゆくへも知らず
なりぬべらなり
          よみ人しらず (古今和歌集・989)

(かぜのうえに ありかさだめぬ ちりのみは ゆくえも
 しらず なりぬべらなり)

意味・・風に吹きあげられて、ありかも定まっていない
    塵のようなはかない私は、これから先どうなる
    か、行き着く所も分らぬものになってしまいそ
    うである。

    大学は出たけれど、定職についていないフリー
    ターの心もとない気持ち。また、上司にいじめ
    られて会社を辞めたいと悩んでいる人の気持ち。
    このような不安定な人の心を詠んでいます。

    裏返して見ると、たとえ過ちを犯していても、
    強(したた)かに生き抜く力が無くてはならない、
    と言っているみたい。     

 注・・風のうへにありかさだめぬ=風に吹き上げられて
     どこにどう落ちるか定まっていない。「ありか」
     は、いる所、住む所。
    塵の身=塵のようなはかない身。例えば、上司に
     いじめられて会社を辞める事を考えている身。


生死に かかはりあらぬ ことながら この十日ほど
心にかかる
                片山広子 (翡翠)

(いきしにに かかわりあらぬ ことながら このとおか
 ほど こころにかかる)

意味・・生死にかかわるような重大な事柄でもないのに、
    この十日あまりの間は、心が何かに押さえられ
    ているようで、ふと気がつくと、その事に心が
    とらわれているのだ。

    家族の病気や人間関係のつまづき、仕事の停滞
    などなどで、人の一生は懸念の連続であると言
    ってよい。考えて見るとそれは生死にかかわる
    ような重大事ではないのだが、何か晴れやらぬ
    思い、心の重い日々を過ごしてしまう、と詠ん
    だ歌です。

作者・・片山広子=かたやまひろこ。1878~1957。東洋
     英和女学校卒。佐々木信綱に師事。アイルラ
     ンド文学の翻訳者。歌集「翡翠」。


いつの世の ふもとの塵か 富士のねを 雪さへたかき
山となしけん
               阿仏尼 (十六夜日記)

(いつのよの ふもとのちりか ふじのねを ゆきさえ
 たかき やまとなしけん)

詞書・・富士の山を見て「古今集の序」の言葉を思い出
    されて。

意味・・いつの時代の麓の塵が積もり積もって、富士の
    山を雪まで頂く高山にしたのだろうか。

    古今和歌集の序の一節に、
    「遠い所も出発の第一歩より始まり、年月を経
    て到達し、高い山も麓のわずかな塵土が積もり
    重なって、ついに天雲がたなびくほど高く成長
    するように、歌もこのように発達を遂げたので
    ありましよう」とあります。

    白楽天の「千里も足下より始まり、高山も微塵
    より起こる」(何事も小さな積み重ねによって
    大きな成果が生まれる)を念頭にして詠んだ歌
    でもあります。

作者・・阿仏尼=あぶつに。1222頃~1283。夫は藤原
     為家(定家の子)。遺産相続争いで鎌倉幕府
     に訴訟のため、京から鎌倉の旅に出る。こ
     の紀行文が十六夜日記です。


雨露に うたるればこそ 楓葉の 錦をかざる
秋はありけれ
                沢庵宗膨

(あめつゆに うたるればこそ かえでばの にしきを
 かざる あきはありけれ)

意味・・雨や露にうたれるからこそ、秋ともなると楓が
    紅葉し、錦を飾ることとなる。
    人もまた同じ、逆境を経てこそ人は大成するの
    である。

作者・・沢庵宗膨=たくあんそうほう。1573~1646。
     臨済宗の僧。

出典・・木村山治朗「道歌教訓和歌辞典」。
 

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