名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2012年12月

捨てし身を いかにと問はば 久方の 雨降らば降れ
風吹かば吹け
              良寛 (良寛歌集・493)

(すてしみを いかにととわば ひさかたの あめふらば
 ふれ かぜふかばふけ)

意味・・俗世間を捨てた身は、どのようであるかと尋ね
    られたならば、雨が降るならば降るのにまかせ、
    風が吹くならば吹くのにまかせて過ごしている
    と、答えよう。 

    参考歌です。

   「うろ路よりむろ路に帰る一休み 雨降らば降れ
   風吹かば吹け」 一休

   (意味は下記参照)

 注・・捨てし身=俗世間を離れて出家した身。
    久方の=「雨」の枕詞。

作者・・良寛=1758~1831。

参考歌です。

うろじより むろじへ帰る 一休み 雨降らば降れ
風吹かば吹け
                一休宗純

(うろじより むろじへかえる ひとやすみ あめふらば
 ふれ かぜふかばふけ)

意味・・人生というのは、この世からあの世へと向かう、
    ほんの一休み。雨が降ろうが風が吹こうが、気に
    しない気にしない。
  
    人生というのは、一休みするほどの短さだ、心の
    こだわりを捨てて、からりとした気持ちで生きる
    ことだ。
  
    「一休」の名の由来の歌です。

 注・・うろじ=有漏路。煩悩(ぼんのう・悩ます迷いの
     心)を持ち悟れない人。この世、現世。
    むろじ=無漏路。煩悩のない悟りの境地。あの世。  
    
作者・・一休宗純=いっきゅうそうじゅん。1394~1481。
     頓知でお馴染みの一休さんです。


み熊野の 浦の浜木綿 百重なす 心は思へど
直に逢はぬかも
         柿本人麻呂 (万葉集・496)

(みくまのの うらのはまゆう ももえなす こころは
 もえど ただにあわぬかも)

意味・・み熊野の浦に咲く浜木綿の葉が、百重に重なって
    いるように、自分が彼女を思うこの恋の思いも、
    決して単純なものではない。積もり積もって苦し
    いばかり。だが、恋しい人には、逢うことも出来
    ない。

 注・・み熊野=「み」は接頭語。「熊野」は三重県紀伊
     半島南部のあたり。
    浜木綿=ひがん花科の常緑多年草。剣の形の葉か
     ら白い花を抜き出したように付ける。
    百重なす心=恋人のことを、ああ思い、こうも思
     い、昨日も今日も思う。その心の重なりをいう。

作者・・柿本人麻呂=生没年未詳。710年頃亡くなった万葉
     歌人。

もちながら 千世をめぐらん さかづきの 清きひかりは
さしもうけなん
           藤原為頼 (後拾遺和歌集・1154)

(もちながら ちよをめぐらん さかずきの きよき
 ひかりは さしもうけなん)

詞書・・人が、瓶に酒を入れて、杯に添えて歌を詠んで
    出しましたので詠んだ歌。

意味・・望月のままで千代をめぐる月の清い光の入った
    杯を、もろにお受けあれ。

    下にも置かず次々と、手から手へと捧げ持ちな
    がら、望月同様、欠けることなく千代まで経め
    ぐる杯を、どうかそのように納め受けられよ。
 
    参考です。

    春高楼の 花の宴
    巡る盃 影さして
    千代の松ヶ枝 わけい出し
    昔の光 いまいずこ

 注・・瓶(かめ)=水や酒を入れる底の深い容器。
    もちながら=「(手に)持ちながら」と「望なが
    ら(満月のままで)」の掛詞。
    さかづき=「杯」と「栄月」の掛詞。
    さしも=そのように。

作者・・藤原為頼=ふじわらのためより。生没年未詳。
     従四位下・丹波守。紫式部の伯父。

ただ恋し うらみ怒りは 影もなし 暮れて旅籠の
欄に倚るとき
               若山牧水 (別離)

(ただこいし うらみいかりは かげもなし くれて
 はたごの らんによるとき)

詞書・・耶馬溪にて。

意味・・こうして一人幾山河を越えてはるばると旅を
    続けていると、何かにつけて思われるのは恋
    しい人のこと。いろいろな場合のその言葉や
    態度などが思い出されて、時には恨みや怒り
    がこみあげて来るような事もあったが、日が
    暮れてからこうしてこの小さな旅館の古びた
    手すりに寄って暗い戸外を見ていると、妙に
    心細くて、これまで時には恨んでみたり怒っ
    てみたりしていたことなど跡方もなく消えう、
    せて、ただ恋しさばかりがひたひたと満ち溢
    れて来る。ああ恋しい。何とかして逢いたい
    なあ。

 注・・欄=欄干、手すり。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
     早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。


大江戸に 事しあるらし 土煙 足掻きに蹴立て
早馬くだれり
               大倉鷲夫 (鷲夫歌集)

(おおえどに ことしあるらし つちけむり あがきに
 けだて はやまくだれり)

意味・・大江戸で何事か事件が起こったらしい。土煙を
    蹴立てて早馬の使いが下って来ている。

    他の一首により、急使が何を知らせるものだっ
    たかが分る。藩主山内豊興の重病を告げる使い
    であり、二度目はその死去を知らせる使いであ
    った。
 
    参考句です。

    鳥羽殿へ五六騎いそぐ野分かな   蕪村

    (吹き荒れる野分の中、異変の注進か五六騎の
     武者が鳥羽殿へと疾走している)

 注・・事し=「し」は「事」を強調する語。
    足掻(あが)き=馬が大地を蹴って進むこと。
    山内豊興=1793~1809。17歳。土佐藩第11代
     藩主。
    鳥羽殿=白川上皇が鳥羽に造営した離宮。
    野分=秋の暴風、台風。

作者・・大倉鷲夫=おおくらわしお。1780~1850。
     高知の商家の生まれ、後に大阪に住む。
     

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