名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2013年02月

梅もみな 春近しと 咲くものを 待つ時もなき
我や何なる
          紀貫之 (拾遺和歌集・1157)

(うめもみな はるちかしと さくものを まつとき
 もなき われやなになる)

意味・・梅でさえもどれもが春が近いといって花咲く
    のに、開花する時を待つことのない、我が身
    は一体何なのだろう。

    開花した梅の花と対比して、不遇な身の上を
    嘆いた歌です。

作者・・紀貫之=きのつらゆき。872~945。従五位下・
     土佐守。古今和歌集の撰者、仮名序を執筆。


鶯の 声なかりせば 雪消えぬ 山里いかで
春を知らまし
          藤原朝忠 (拾遺和歌集・10)

(うぐいすの こえなかりせば ゆききえぬ やまざと
 いかで はるをしらまし)

意味・・もしも鶯の声が聞こえなかったならば、雪が
    消え残っている山里では、どうして春の到来
    を知ろうか。

作者・・藤原朝忠=ふじわらのあさただ。910~966。
     従三位中納言。三十六歌仙の一人。
 

萌え出づる 木の芽を見ても 音をぞ泣く かれにし枝の
春を知らねば
                    兼覧王女 

(もえいずる このめをみても ねをぞなく かれにし
 えだの はるをしらねば)

意味・・春になって萌え出る木の芽を見ても、私は声を
    上げて泣いております。枯れた枝は春になって
    も萌え出ることがないのと同様に、あなたに離
    (か)れた私に春は関係ありませんので。

 注・・かれにし=離れにし。「離れ」は身近なもの大
     切なものから離れ遠ざかる意。「枯れにし」
     を掛ける。

作者・・兼覧王女=かねみのおおきみのむすめ。未詳。

出典・・後撰和歌集・14。
 

別れより まさりておしき 命かな 君にふたたび
逢はむと思へば
           藤原公任 (千載和歌集・477)

(わかれより まさりておしき いのちかな きみに
 ふたたび あわんとおもえば)

意味・・君との惜別のつらさはもちろんだが、それより
    もまさって惜しく思われるのは我が命である。
    君に再び生きて逢おうと思うから。

作者・・藤原公任=ふじわらのきんとう。966~1041。
     正二位権大納言。「和漢朗詠集」の作者。

いつよりか 結びそめけん 朝霜を 知らでいねつる
程をしぞ思ふ
             細川幽斎 (玄旨百首・59)

(いつよりか むすびそめけん あさしもを しらで
 いねつる ほどをしぞおもう)

意味・・いつの頃から朝霜は置くようになったのだろう
    か。こんなに冬らしくなったなったのも知らず
    に、私は鬱々(うつうつ)として朝寝を続けてい
    たのだなあ。

    気づかずにうかうかと世を過ごしているうちに
    頭に霜(白髪)が置くようになり、年をとってし
    まったことだ。

 注・・いね=寝ね。寝ること。
    鬱々=気がふさぎ、晴々しないこと。

作者・・細川幽斎=ほそかわゆうさい。1534~1610。
     剃髪後は幽斎玄旨と号する。歌人・古典学者
     として活躍。家集「集妙集」。


深山には なべて木の芽の 春の世も 松を残して
積もる雪かな
              三条西実隆
             (内裏着到百首・17)

(みやまには なべてきのめの はるのよも まつを
 のこして つもるゆきかな)

意味・・山深いここでも木の芽がふくらみ、春の訪れ
    を見せているが、松には、青葉を隠して、雪
    が残っていることだ。

 注・・春=「木の芽が張る」を掛ける。
    松を残して=春の気配に松が取り残されて。

作者・・三条西実隆=さんじょうにしのさねたか。1454
     ~1537。52歳で内大臣、62歳で出家。

人の心 あらずなれども 住吉の 松のけしきは
変らざりけり
            津守景基 (千載和歌集・1033)

(ひとのこころ あらずなれども すみよしの まつの
 けしきは かわらざりけり)

意味・・人心はすっかり変わってしまったが、住吉の松
    の様子だけは変わらないことだ。

    作者の父親が亡くなったので、一緒にいた兄が
    住吉を離れることになった。この時に詠んだ歌
    です。松は全く変わらないのに、人の動きのあ
    わただしさを詠んでいます。

 注・・あらず=違う、そうではない。
    住吉=摂津国。松の名所。

作者・・津守景基=つもりのかげもと。生没年未詳。


過ぎきにし 四十の春の 夢のよは 憂きよりほかの
思ひでぞなき
           覚審法師 (千載和歌集・1028)

(すぎきにし よそじのはるの ゆめのよは うきより
 ほかの おもいでぞなき)

意味・・過ぎて来た四十年の、春の夢のようにはかない
    人生は、憂いという以外の思い出はないことだ。

 注・・春の夢=はかなさの喩え。
    春の夢のよ=春の夢の世。はかなさそのものの
     ような人生。

作者・・覚審法師=かくしんほうし。生没年未詳。比叡
     山の僧。

唐錦 秋見し水の 鏡さへ 落葉に曇る 
冬の山川
             藤原持季 (仙洞歌会・10)

(からにしき あきみしみずの かがみさえ おちばに
 くもる ふゆのやまかわ)

意味・・秋には唐錦のような紅葉を映し見た山川の水鏡
    までもが、冬の今は散りかかる落ち葉で曇って
    いる。

作者・・藤原持季=ふじわらのもちすえ。1415年生まれ。
     従一位権大納言。1467年出家。

庭ひろき 池の心の ちりもなし 松にや世々の
年つもるらん
            正徹 (正徹詠草・22)

(にわひろき いけのこころの ちりもなし まつにや
 よよの としつもるらん)

意味・・広い庭にある大きな池の水には一点の塵も積もっ
    ていないが、そのほとりの松にはこれから幾世に
    もわたる年が積もるだろう。

 注・・庭ひろき池=広い庭と広い池の両意。

作者・・正徹=しょうてつ。1381~1459。室町時代の歌僧。
     歌集「草根集」。

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