名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2013年03月

何となき 草の花さく 野べの春 雲にひばりの
声ものどけき
           永福門院 
         (永福門院百番御自歌合・10)

(なにとなき くさのはなさく のべのはる くもに
 ひばりの こえものどけき)

意味・・名も無いような雑草の花が咲く野辺の春景色。
    遥かな雲の中でひばりの鳴く声がするのは実
    にのどかだ。   

 注・・何となき=特にどうという事は無い。

作者・・永福門院=えいふくもんいん。1271~1342。
     伏見天皇の中宮。「玉葉和歌集」の代表的
     な歌人。


物思へば 心の春も 知らぬ身に なにうぐひすの 
告げに来つらん
              建礼門院右京大夫 
              (玉葉和歌集・1842)

(ものもえば こころのはるも しらぬみに なに
 うぐいすの つげにきつらん)

意味・・物思いに沈んでいるのでのどかな春が来た
    とも知らず、心の晴れることのない私の所に、
    うぐいすは何を知らせに来たのだろう。

 注・・物思へば=好きな人に思い悩むなど。
    心の春=「心が晴れる」を掛ける。
    うぐいす=「憂く干ず」(つらい涙が乾かない)
     を掛ける。

作者・・建礼門院右京大夫=けんれいもんいんのうきょ
     うのだいぶ。生没年未詳。平安・鎌倉時代の
     歌人。  


のどかにも やがてなり行く けしきかな 昨日の日影
今日の春雨
              伏見院 (玉葉和歌集・18)

(のどかにも やがてなりゆく けしきかな きのうの
 ひかげ きょうのはるさめ)

意味・・早くものどかになって行く様子だなあ。昨日の
    うららかな日差し、今日のこの静かに降る春雨。

 注・・のどかにも=のんびりした陽気、気分。
     やがて=ただちに、すぐさま。
     日影=日光、日差し。

作者・・伏見院=ふしみいん。1265~1317。弟92代天皇。
     鎌倉期の歌人。「玉葉和歌集」を撰集させる。
  

鳥の音に のどけき山の 朝あけに 霞の色は
春めきにけり
            藤原為兼 (玉葉和歌集・9)

(とりのねに のどけきやまの あさあけに かすみの
 いろは はるめきにけり)

意味・・鳥の声ものどかに聞こえて来る山の明け方に、
    たちこめる霞の色はすっかり春らしくなった
    ことだ。

作者・・藤原為兼=ふじわらのためかね。1254~1331。
     華美な振る舞いに武家の反感を買い佐渡に
     流される。「玉葉和歌集」の撰者。

     

木々の心 花ちかからし 昨日けふ 世はうすぐもり
春雨ぞ降る
            永福門院 (永福門院百番御歌合・6)

(きぎのこころ はなちかからし きのうきよう よはうす
 ぐもり はるさめぞふる)

意味・・木々はその心の中で、もうすぐ花を咲かせようと
    思っているらしい。そんな昨日今日、世はうす曇
    り、花を咲かせる春雨が静かに降っている。

    木々の幹はかすかな光沢を帯び、花のつぼみは命
    をはらんで膨らんでいる。春の呼吸のようなもの
    を作者は感じとめて詠んでいます。

作者・・永福門院=えいふくもんいん。1271~1342。伏見
     天皇の中宮。「玉葉和歌集」の代表的歌人。

わがかへる 道はまれなる 故郷に 年々やすく 
雁の行くらん
             藤原為相 (為相百首・11)

(わがかえる みちはまれなる ふるさとに としどし
 やすく かりのゆくらん)

意味・・雁は自分の故郷に帰る道は、一年に一度でめっ
    たに通らないものなのに、どうして毎年毎年あ
    のように楽々と帰って行くのだろう。

作者・・藤原為相=ふじわらのためすけ。1263~1328。
     父は為家、母は阿仏尼。正二位中納言。

ほのぼのと 春こそ空に 来にけらし 天の香具山
霞たなびく        
            後鳥羽院(新古今和歌集・2)

(ほのぼのと はるこそそらに きにけらし あまの
 かぐやま かすみたなびく)

意味・・ほんのりと春が空に来ているらしい。今、
    天の香具山には、あのように霞が棚びいて
    いる。

    香具山を中心に、天地に広がってきている
    春の気配を詠んでいます。

 注・・ほのぼのと=ほんのりと。
    来にけらし=来たらしい。
    天の香具山=奈良県橿原市にある山。「天」
     は美称。

作者・・後鳥羽院=後鳥羽院。1189~1239。82代天皇。
     鎌倉幕府の打倒を企て敗れて隠岐に流される。
     「新古今集」の撰集を命じる。


老いらくの おやのみる世と 祈りこし 我があらましを
神やうくらん
              藤原為家 (続後撰和歌集・573)

(おいらくの おやのみるよと いのりこし わがあらましを
 かみやうくらん)

詞書・・大納言になりて悦(よろこ)び申しに日吉社(ひえのやし
    ろ)にまいりて。

意味・・年老いた父が、(私の昇進を)生きているうちに見るよう
    にと祈ってくださった、私へのかねてからの思いを神様
    は受け入れて下さったのだ。

    所願成就の喜びを込めた歌です。為家任官の半年後に父
    定家は死去する。

 注・・日吉社(ひえのやしろ)=近江国(大津市)の神社。
    老いらくの=老年。父定家80歳。
    みる世=現世、この世で見ること。
    あらまし=予想、予期。前もって思いはかること。

作者・・藤原為家=ふじわらのためいえ。1198~1275。正二位大
     納言。58歳で出家。「続後撰集」「続古今集」の撰集
     に携わった。藤原定家は父。


乙女子が かざしの桜 咲きにけり 袖ふる山に
かかる白雲
           藤原為氏 (続後撰和歌集・70)

(おとめごが かざしのさくら さきにけり そでふる
 やまに かかるしらくも)

意味・・美しい乙女子の頭に飾りとして挿す桜が咲いた
    なあ。そして乙女が袖を振って舞うという袖ふ
    る山にも白雲のように桜が咲いている。

 注・・かざし=挿頭。頭髪や冠に花の枝を飾りとして
     挿す。
    袖ふる山=天理市にある布留山。大和国の歌枕。
     乙女が袖を振るのは舞う姿や人を招く意を含
     める。
    白雲=山に咲いた桜を白雲と見立てたもの。

作者・・藤原為氏=ふじわらのためうじ。1222~1286。
     正二位大納言。藤原定家は祖父。

み吉野の 花のさかりを 今日見れば 越のしらねに
春風ぞ吹く
            藤原俊成 (千載和歌集・76)

(みよしのの はなのさかりを きようみれば こしの
 しらねに はるかぜぞふく)

意味・・この吉野の花の盛りを今日眺めると、あの白雪
    を頂いている越の白嶺に春風が吹いていると思
    われるばかりだ。

 注・・吉野=奈良県吉野町。歌枕。桜の名所。
    越のしらね=富山・石川・福井・岐阜の各県に
     またがる白山。歌枕。

作者・・藤原俊成=ふじわらのとしなり。1114~1204。
     正三位皇太后宮大夫。定家の父。「千載和歌
     集」の撰者。

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