名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2013年03月

いにしへの 朽木のさくら 春ごとに あはれ昔と
思ふかひなし
             源実朝 (金槐和歌集・709)

(いにしえの くちきのさくら はるごとに あわれ
 むかしと おもうかいなし)

意味・・朽木となった昔の桜は、春ごとに、ああ、昔
    は美しく咲いただろうに、と偲ばせるが、今
    や見る甲斐もないことだ。

作者・・源実朝=みなもとのさねとも。1192~1218。
     28歳。12歳で鎌倉幕府の征夷大将軍となる。
     鶴岡八幡宮で暗殺される。

浅緑 花もひとつに 霞つつ おぼろに見ゆる
春の夜の月
          菅原孝標女 (新古今和歌集・56)

(あさみどり はなもひとつに かすみつつ おぼろに
 みゆる はるのよのつき)

意味・・浅緑色の霞に桜の花も一つになって霞み、おぼ
    ろに見える春の夜の月、その風情に心が惹かれ
    ます。

    春と秋のどちらの情趣に心が惹かれるかと論争
    した折に詠んだ歌です。、

 注・・浅緑=薄緑、霞んでいる空の色をいった。
    花も=桜の花も。

作者・・菅原孝標女=すがはらのたかすえのむすめ。生
     没年未詳。1060頃の人。「更級日記」の著者。

はたなかの かれたるしばに たつひとの うごくともなし
ものもふらしも
              会津八一 (南京新唱)

(畑なかの 枯れたる芝に 立つ人の 動くともなし
 もの思ふらしも)

詞書・・平城宮址の大極芝にて。

意味・・畑の中の枯れた大極殿址の芝に立つ人は
    動こうともせずじっと佇んでいるが、け
    だし物思いに耽っているのであろう。

    奈良時代の大極殿の址が、今見ると「畑
    なかの枯れた草」であることに、感慨を
    催して詠んだ歌です。

 注・・平城宮・大極殿=今の奈良県生駒郡に710
     年頃造営され、784年長岡京に遷都され
     るまで70年間、奈良の都として繁栄した。
    大極殿芝=大極殿址の土壇に生えている草。

作者・・会津八一=あいづやいち。1881~1956。早
     大文科卒。文学博士。美術史研究家。歌
     集「鹿鳴集」「南京新唱」。  
    

降りつみし 高ねのみ雪 解けにけり 清滝川の
水の白波
            西行 (新古今和歌集・27)

(ふりつみし たかねのみゆき とけにけり きよたき
 がわの みずのしらなみ)

意味・・降り積もった高嶺の雪が解けたのだなあ。清滝川
    の水が烈しく立てている白波は。

 注・・み雪=「み」は語調を整える接頭語。
    清滝川=京都の愛宕山の東を南流し大井川に合流。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1191。

たづねつる 宿は霞に うづもれて 谷の鶯
一声ぞする
           藤原範永 (後拾遺和歌集・23)

(たずねつる やどはかすみに うずもれて たにの
 うぐいす ひとこえぞする)

意味・・霞に埋もれた家を訪ねあてると、折から谷の
    鶯の一声が聞こえて来る。

作者・・藤原範永=ふじわらののりなが。生没年未詳。
     正四位摂津守。

来ん世には 心の中に あらはさん あかでやみぬる
月の光を
           西行 (千載和歌集・1023)

(こんよには こころのうちに あらわさん あかでや
 みぬる つきのひかりを)

意味・・来世には心の中に現そう。この世ではいくら
    見ても見飽きることのなかった月の光を。

    月輪観(がちりんかん)を詠んでいます。「求
    道者が、己の心は円満な月の如く、円満清浄
    であって、その光明があまねく世界を照らす
    と観ずる法をいう。密教では誰もが本来仏性
    を具有すると説く。その仏性は様々なものに
    邪魔されて普段は隠れているけれども、努力
    して障害を取り除けば本有の仏性が現れて、
    誰でも覚者になり得ると教える。この本有の
    仏性を心月輪(しんがちりん)ともいう」、すな
    わち「行者が自己の内奥に満月の如く輝く仏
    性が存在することを自覚するための観法」。

 注・・心の中にあらはさん=心中に月を現ずる。心
     月輪(しんがちりん)。心が月のごとく円満
     清浄に輝いていると自覚すること。月輪観
     による表現。
    あかでやみぬる=この世で最後まで見飽きず
     に終わったの意。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1191。俗名佐藤義
     清。下北面の武士として鳥羽院に仕える。
     1140年23歳で財力がありながら出家。出家
     後京の東山・嵯峨のあたりを転々とする。
     陸奥の旅行も行い30歳頃高野山に庵を結び
     仏者として修行する。家集「山家集」。

隅々に残る寒さやうめの花
             
           与謝蕪村 (蕪村全句集・126)

(すみずみに のこるさむさや うめのはな)

詞書・・すりこ木で重箱を洗ふごとくせよとは、政
    (まつりごと)の厳刻なるをいましめ給ふ。
    賢き御代の春にあふて。

意味・・春になって、梅が開花したとはいえ、冬の
    寒さが世間のあちらこちらに残っている。

    世間隈なく春なれかしと仁政を期する寓意
    句。

 注・・すりこ木で重箱を洗ふ= 大井利勝による
    戒めの言葉「丸き木にて角なる器の中をか
    きまわす如くにあれば事よき事なり。丸き
    器の内をまはす如く隅々まで探せば事の害
    出来候ぞ」による。
    賢き御代=新しい帝の治政。

作者・・与謝蕪村=よさぶそん。1716~1783。南宗
     画の大家。

道のべの 朽木の柳 春くれば あはれ昔と
しのばれぞする
          菅原道真 (新古今和歌集・1449)

(みちのべの くちきのやなぎ はるくれば あわれ
 むかしと しのばれぞする)

意味・・道のほとりの朽ちかけた柳の古木も、春が来る
    と、ああ、昔は盛んに茂っていたよと偲ばれる。

    左遷された我が身を朽木の柳に譬え、過去の栄
    華を追想している。

 注・・朽木の柳=朽ちかけた柳。老女の色香を柳に譬
     える。道真の境遇も譬える。

作者・・菅原道真=すがわらのみちざね。845~903。従
     二位右大臣。代表的漢詩人。讒言(ざんげん・
     事実を曲げて人を悪く言う事)により大宰府に
     左遷された。
    

散りぬとも 香をだにのこせ 梅の花 恋しきときの
思ひいでにせん
          詠み人しらず (古今和歌集・48)

(ちりぬとも かをだにのこせ うめのはな こいしき
 ときの おもいいでにせん)

意味・・たとい散ってしまおうと、せめて枝に香だけ
    でも残してくれ、梅の花よ。恋しい時の思い
    出にしょうと思うので。

 注・・思ひいで=思ひ出で。思い出。


頼もしき 誓ひは春に あらねども 枯れにし枝も
花ぞ咲きける
           平時忠 (千載和歌集・1238)

(たのもしき ちかいははるに あらねども かれにし
 えだも はなぞさきける)

詞書・・観音の誓いを思ひて侍(はべり)ける。

意味・・頼もしい観音への祈願は、春ではなくとも枯枝
    にも花を咲かせるものだ。
    観音に祈願するとどんな病気でも治るものだ。

    どんな病気でも必ず治る、必ず治して見せると
    いう気の持ち方が、自己治癒力を高めるという。

 注・・観音の誓い=仏や菩薩が人の病気を治し救おう
     とする願い。
    枯れにし枝・・=どんなに病んでいてもきっと
    治るの意。

作者・・平時忠=たいらのときただ。1130~1189。正二
     位・大納言。平氏滅亡後能登に流される。


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