名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2013年05月

ながむべき 残りの春を かぞふれば 花とともにも
散る涙かな
            俊恵法師 (新古今・142)

(ながむべき のこりのはるを かぞうれば はなと
 ともにも ちるなみだかな)

意味・・花を眺める事の出来る、自分に残された春
    を数えると、花は身に沁みて哀れに感じら
    れ、落花とともに、こぼれる涙である。

    「残りの春」は桜の咲くのを、一年単位に
    見ての残りの年で、余命。死を意識する時
    全ての物の存在は、面目を改めるという。
    この歌も、花の美しさが身に沁み、思わず
    涙がこぼれ落ちる涙であった事が知られる。
    我が命も惜しまれる境地である。

作者・・俊恵法師=生没年未詳。表記の歌は1278年
     詠んだ歌。65歳くらい。東大寺の僧。

われはもや 安見児得たり 皆人の 得がてにすとふ
安見児得たり
             藤原鎌足 (万葉集・95)

(われはもや やすみこえたり みなひとの えがてに
 すとう やすみこえたり)

意味・・私は安見児を妻にした。誰もが皆妻とする事が
    出来ないという安見児を妻にしたのだ。うれし
    くてたまらない。

 注・・われはもや=「も」+「や」は感動の意を表す。
    安見児(やすみこ)=采女(うねめ)の一人の名。
     采女は容姿美しい女性達で宮中に仕えた女官。

作者・・藤原鎌足=ふじわらのかまたり。614~669。蘇
     我氏を滅ぼし内大臣となる。大化改新を推進。


たまゆらに 昨日の夕べ 見しものを 今日の朝に
恋ふべきものか
            詠み人知らず (万葉集・2391)

(たまゆらに きのうのゆうべ みしものを きょうの
 あしたに こうべきものか)

意味・・昨日の夕べ、ほんのちらと、偶然めぐりあった
    あの人なのに、もう今朝は、あの人の面影が胸
    に棲(す)みついて、私はあの人を恋し始めてい
    る。こんな事があるものだろうか。

 注・・たまゆら=珠と珠が触れあつてかすかな音をた
     てるその瞬間の事。束の間の短い時間。


うちしめり あやめぞかをる 時鳥 鳴くや五月の
雨の夕暮れ
              藤原良経 (新古今集・220)

(うちしめり あやめぞかおる ほととぎす なくや
 さつきの あめのゆうぐれ)

意味・・しっとりと湿って軒に葺(ふ)いたあやめが、一段
    と香り高く薫って来る。折りから時鳥が鳴く五月
    雨の降る夕暮れ時に。

    「あやめ」は五月五日端午の節句に軒に挿した菖蒲
    の事。香りが強く、蚊などの害虫や邪気を払うも
    のとされた。
    あやめの香りが分るほど静かな気分になっている
    気持ちを詠んでいますが、次の歌の本歌取りなっ
    ていて、作者は楽しい恋をしている気分も含めて
    います。

    本歌です。

    「時鳥鳴くや五月のあやめぐさあやめも知らぬ
    恋もするかな」
            詠み人知らず(古今集・469)

    (ほととぎすの鳴く五月、その五月を彩(いろど)
    るあやめ草、そうしたさわやかな季節に、私は
    この草のようなあやめも分らぬ(事の分別もつか
    ない)恋をしている)

 注・・あやめも知らぬ=文目も知らぬ。物の条理、筋
     道の分別もつかない(ほど恋に夢中になってい
     る)。

作者・・藤原良経=ふじわらのよしつね。1169~1206。
     37歳。従一位太政大臣。新古今集の仮名序を
     執筆。

(5月22日 名歌鑑賞)


水伝ふ 磯の浦みの 岩つつじ 茂く咲く道を
またも見むかも
          皇子尊の宮の舎人
          (万葉集・185)
(みずつたう いそのうらみの いわつつじ もくさく
 みちを またもみんかも)

意味・・水が伝い流れている水ぎわの曲がり角に、岩
    つつじが盛んに咲くこの道を、再び見る事が
    出来るだろうか。

    草壁の皇子が亡くなって悲しんで詠んだ歌で
    す。
    草壁の皇子に仕えていた舎人達は、皇子の死
    の一周忌には解任される。
    岩つつじが、赤く輝いて咲き満ちている道を
    通って、宮の前に参上していた日々は、なん
    と幸福であった事か。もう、あの日も来ない。
    そう思った時、舎人はその岩つつじを目に焼
    きつけ、思い出のよすがにしたことだろう。

 注・・磯の浦み=「磯」は海や湖などの水辺で岩の
     多い所。「浦」は曲がって陸に入り込んだ
     所。
    茂(も)く=草や木の盛んに成長するさま。
    皇子尊(みこのみこと)=ここでは草壁の皇子。
    宮=宮殿。
    舎人(とねり)=天皇や皇族の雑用をする下級
     官人。


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