名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2013年11月

世の中の 憂きも辛きも 今日ばかり 昨日は過ぎつ
明日は知らず
            作者不明   

(よのなかの うきもつらきも きょうばかり きのうは
 すぎつ あすはしらず)

意味・・世の中には嫌な事もあれば辛い事もある。だが、
    嫌な事や辛い事をいつまでも引きずっていても
    どうしようもない。どんなに大変な事でも今日
    だけの事であり、時とともに過ぎて行く。そし
    て明日の事は誰にも分らない。いつまでもくよ
    くよしないで、嫌な事や辛い事はぱっと忘れて、
    ケセラセラで行こうじゃないか。

出典・・山本健治著「三十一文字に学ぶビジネスと人生
     の極意」

参考歌です。   

世の中を 何にたとへむ 朝ぼらけ 漕ぎ行く舟の
跡の白波
          沙弥満誓(拾遺和歌集・1327)
    
           
(よのなかを なににたとえむ あさぼらけ こぎゆく
 ふねの あとのしらなみ)

意味・・この世の中を何にたとえようか。夜明け方に
    漕ぎ出して行く舟の跡に立つ白波のように、
    立ってはすぐに消え行くはかないものだ。

    人の噂も75日という。悪い噂をたてられて
     も、せいぜい75日ぐらいだから、噂を気に
     するなと言っている。このように良きにしろ、
     悪しきにしろ、嬉しいこと苦しい事も思い出
     になり、忘れられ、そしていつかは消えてなく
     なって行く。

 注・・世の中を何にたとへん=無常な世を比喩で示そ
     うとしたもの。
    朝ぼらけ=夜明け方の物がほのかに見える時分。
     春の「曙」に対して秋・冬の季節に用いる。
    漕ぎ行く舟の跡の白波=舟の航跡はすぐに消える。

作者・・沙弥満誓=さみのまんぜい。生没年未詳。美濃守・
     従四位下。721年に出家。大伴旅人・山上憶良
     らと親交。
    

思ひつつ 経にける年の かひやなき ただあらましの
夕暮れの空
                  後鳥羽院

(おもいつつ へにけるとしの かいやなき ただ
 あらましの ゆうぐれのそら)

意味・・あの人を思い続けて過ごして来た月日の効き
    目もなく、またあの人を忘れようと忘れ貝を
    拾った効き目も著れてこない。今日もまた逢
    える見込みはなく、この恋の将来はどうなる
    事かと空しく思い煩ううち、気づいてみれば、
    早くも夕暮れになってしまった。

 注・・かひ=「甲斐」と「貝」を掛ける。貝は忘れ
     貝を意味して、これを拾うと恋しい人を忘
     れる事が出来ると思われていた。
    ただ=「直・早くも」と「徒・むなしい」を
     掛ける。
    あらまし=将来についてあれこれと思いを巡
     らす事。

作者・・後鳥羽院=ごとばいん。1180~1239。高倉天
     皇の第四皇子。1221年承久の乱の企てが失
     敗して隠岐に流される。「新古今和歌集」の
     撰集を下命。
  
出典・・松本章男著「歌帝後鳥羽院」

ありがたし 今日の一日も わが命 めぐみたまへり
天と地と人と
                 佐々木信綱

(ありがたし きょうのひとひも わがいのち めぐみ
たまえり あめとつちとひとと)

意味・・じつに有難い事である。今日の一日も自分の生命
    が無事に過ごす事の出来たのは、天と地と人との
    恩恵によるものである。

    雨が降り水の恵が与えられ、日が照り光の恵を与
    えてくれる天の恵み。米や野菜の農作物の恵を与
    えてくれる地の恵。食べる物や着る物も全部人に
    頼っている人の恵。

    生きていく事は自分一人の力によるものでないと
    へりくだって、感謝の気持ちを詠んでいます。

作者・・佐々木信綱=ささきのぶつな。1872~1963。東大
     古典科卒。国文学者・歌人。

出典・・佐々木信綱歌集。

大工町 寺町米町 仏町 老母買う町
あらずやつばめよ
            寺山修司

(だいくまち てらまちこめまち ほとけまち ろうぼ
 かうまち あらずやつばめよ)

意味・・大工町があり、寺町があり、米町があり、仏町
    があり、其の他いっぱい町がある中で、私の老
    いた貧しい母を買ってくれる町はないだろうか。
    つばめさんよ。

    前世代の名称を引きずっている町の名(大工町・
    寺町・米町・仏町)を平面に並べ、最後に架空
    の町(老母買う町)を述べで地獄絵を描き、年老
    いた母の介護をする大変さを詠んでいる。

    介護施設のない時代は、老母を介護するために
    会社を辞めて世話をする事もあり、当人にとっ
    ては地獄を味わう苦しさである。

    老母を買う町があれば売ろうという地獄を描い
    た歌です。

 注・・大工町、寺町、大工町、米町、仏町=これらの
     名のついた町は全国にいくつかあります。
     茨城県水戸市大工町、京都市寺町、北九州小
     倉米町、石川県白山市法仏町など。

作者・・寺山修司=てらやましゅうじ。1935~1983。
     早稲田大学中退。   

出典・・歌集「田園に死す」。

大そらを 静かに白き 雲はゆく しづかにわれも
生くべくありけり
                相馬御風

(おおそらを しずかにしろき くもはゆく しずかに
 われも いくべくありけり)

意味・・青い大空を白い雲がゆったりと流れている。
    あの雲のように静かに生きるべきである。

    流れる雲のように、人生を生きようと強い
    決意を歌っています。
    雲にはやさしい風ばかりではない。吹きち
    ぎり吹き飛ばす風がある。長い人生もまた
    然りである。人生は順風満帆ばかりなんて
    ありえない。人生に起きる風雨や嵐、どん
    な苦楽も取捨せず、ありのまま受け入れて
    人生の肥やしとして大らかな心になろう、
    と詠んでいます。

作者・・相馬御風=そうまぎょふう。1883~1950。
     早稲田大学卒。詩人・歌人。早大講師。

出典・・御風歌集。

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